書 評

玄田有史著「仕事の中の曖昧な不安」中央公論新社、2002年1月
(『日本経済新聞』2002年1月27日掲載)

 失業率の戦後最高記録がつぎつぎと塗り替えられている。メディアでは、中高年の雇用不安が大きく取り上げられる。ところが、若者については失業率が10%を越える水準であるにもかかわらず、深刻度は中高年より低いと軽視される傾向がある。

 玄田氏は、「@失業者の数、A横浜市の人口、B四年生大学の学生数、以上のうち日本国内で一番多いのはいずれか。」という問題で、失業者の数を実感させ、横浜国際総合競技場の収容人員と45−54歳大学卒の失業者数の大小を問うことで中高年失業よりも若者失業の多さを理解させる。その上で、若年失業は、若者の行動が変わったという供給側の変化ではなく、需要側の変化が主因であること、特に中高年の雇用が既得権で守られていることが若年雇用の低下をもたらしたということを豊富なデータで明らかにしている。若年失業問題の難しいところは、それが「非自発的」なものであるにも関わらず、社会全体も場合によっては若年本人でさえも「自発的」なものであると考えている点である。著者は、若年に漂う将来に対するあきらめや無力感を解決するには、彼らをより厳しい状況におくのではなく、中高年の既得権を打破し、若者に働く機会を確保することが必要だという。若者も一様ではない。全体として働く機会が減っている若者であっても、一方でフリーターの数を上回る数の若者が週60時間以上の長時間労働をしている上に、その比率は不況下で増えている。若者の中にも仕事の「二重構造」化が進展している。

 仕事に就けない原因が努力不足にあると、本人でさえも考えてしまう社会は、完全雇用下では望ましいが、不況期には不幸な結果をもたらす。

 中高年の既得権益が打破されないとすれば、若者はどうすればいいのだろうか。著者は、「自分で自分のボスになる」という自営業への意欲をもつことが解決の方法だという。また、転職を成功させるのには、会社の外に友人や知人をもっていることが必要だという。著者の若者へのやさしい眼差しが随所に感じられる。背景の学問的な研究を感じさせない、実に読ませる本である。