プロジェクト概要

本研究の目的は、市場調整機能や社会制度が個人の社会規範や公共心に影響を与えるかを実験室実験とフィールド実験から検証することである。この研究では、地域の文化の違いによって社会制度の効果は異なるのかも検証し、最適な社会制度を提案することで、人文社会科学分野として社会貢献に努める。


 

問題意識

人間は集団を形成すると独自の文化を生み出し、そして社会規範や公共心を醸成することで1 つの「社会」を形作る。そして、このような社会は市場調整機能を整備したり、また経済制度や地域組織特有のルールを規定したりすることで、人々は決められたルールのもので経済取引や地域協働活動を行い、より豊かな生活を送ることができる。また逆の観点からみると経済活動や地域協働活動を規定する制度やルール、そして市場調整機能が人々の社会規範や公共心に影響を与えることもある。また文化的背景によって影響が違うと考えられる。このような社会形成のダイナミズムの構造を解明することは「人間・文化・社会」を研究対象とする人文・社 会科学の重要な役目である。これを解明することは研究者だけでなく、政策立案者にも必要で ある。そうでないと、社会規範や公共心の欠如によって不正が蔓延する社会的リスクやモラル ハザードにより地域の防災機能が低下する災害リスクに対して適切な対処ができないからだ。 そのような潜在的な社会的リスクや災害リスクを克服し、成熟した知的社会の形成に向けて必要な政策を提案することは人文社会科学分野の研究者ができる社会貢献と考える。

実務者や異なる分野の研究者との連携

経済活動や地域協働活動を規定する制度や市場調整機能と社会規範や公共心の相関関係に関する研究は、学術的な分野だけでなく、政策的な分野でも注目されており、内閣府が提唱する「新しい公共」と密接に関連している。これまでは行政が公共サービスを提供し、市民が税金 を支払う代わりに公共サービスを受ける行政システムであった。「新しい公共」では市民が公共サービスを提供する側、受ける側両方の役割を果たし、行政は公共サービスが取引されやすい環境を整備する役割に限定する。行政は市民に公共サービス提供の権利と責任を委譲する。この新しい公共制度が機能するためには市民の高い公共心、社会規範と協調性が必要である。 本研究を通じて新しい公共に基づく社会形成に必要な社会規範と公共心を醸成する制度は何 かを提案できる。従って、本研究は今後望まれる「新しい公共」社会の効率的な形成に貢献で きると考える。また日本とフィリンピンを比較することで文化的背景の影響も探求できる。
本研究の特長は、これまであまり経済学の研究対象とされてこなかった「社会規範」や「公共心」に着目したことである。一見、経済制度と社会規範・公共心との間には相関関係がないと考えられるが、「新しい公共」政策と関連しているし、行動科学や心理学との学際的な観点からも重要であり、分野間連携で解決すべきテーマである。本研究は人文社会科学の学術的な発展に大いに貢献できると考える。

プロジェクト概要