DOS/V マシンを買ってから ネットワークを使うまで

神戸大学経済学部
谷崎久志

(MAGE, Vol.18, No.1, 1996 に収録)

知識はゼロから

この神戸大学の経済学部に赴任して来たのは今年の 4 月だった。インターネット に関する知識はゼロだった。E-mail は知っていたが,受け取ったことも出したこと もなかった。海外の知り合いの先生からは E-mail の住所を知らせてくれと,何度も 催促があったが,いつもうちの大学(前の大学のこと)には E-mail はないと答えて いた(実際になかった)。まして,FTP, Gopher, WWW 等は何のことかさっぱり分から なかった。というような状況だったが,赴任早々,授業担当科目が情報処理というこ ともあって,インターネットのインストールに携わることとなった。

インストール

当然のことながら,インターネットを使用するためには,ハードとソフトの両方 をインストールしなければならない。私の場合,3COM の EtherLink III というボー ドと Chameleon というソフトを選ぶ。選ぶというよりも,赴任時に試用のため 3 人 分既に経済学部が買っていて,それを使うことになっていたという方がより正しい言 い方である。3 人がうまくいけば,DOS/V コンピュータを持つその他の先生方にも, このハードとソフトの組み合わせでインストールするという段取りになっていた。

パソコンとボードの相性は?

まずは,3COM のボード(EtherLink III)の取り付けについて,試用の段階では 3 人とも問題なく取り付けが成功した。しかし,後に,残りの先生方のコンピュータ に取り付けた場合,コンピュータによって問題が生じた。3COM のボードがヴァージ ョンアップしたらしく,最初の 3 人のものと,残りの先生方のもの中のいくつか( 全部ではなく)は異なるボードだった。Plug and Play の機能のあるコンピュータ( 最近のパソコンにはこの機能があるらしい)と 3COM EtherLink III の新しいボード とは,時に相性が悪いということが分かった。最近の 3COM のボードに付属のソフト では,Plug and Play の機能のあるコンピュータに対応するためのバッチ・ファイル が用意されている(しかし,試用のための 3 人分のボードは Plug and Play と相性 は悪くなかったので,このバッチ・ファイルを必要とはしなかったし,付属のソフト にもバッチファイルは入っていなかった)。このように,厄介なことに,コンピュー タによって(または,ボードによって),インストールの方法が異なったのである。 このことを知らずに,最初,ボードの故障だと思い取り替えてもらったこともあった 。10 台の中で,2,3 台の割合で,インストールがうまく出来なかったのでさすがに ,3COM のボードが不良品なのではなく,他に原因があるのではないかと思いはじめ て,付属のソフトのインストール・ドキュメント等を読んでみると,このような相性 の問題であることが分かったのである(コンピュータに限らず,私は説明書があって も読まないことが多い)。

Chameleon のインストールは,5 分でセットアップが出来る!?

どうにか,ボードのインストールが終わった後に,次に,Chameleon のインスト ールをする。まずは,Finger, Ping, Telnet は後回しにして,電子メール(E-mail) だけは使えるようにと思い,インストールを始める。Chameleon の広告には,5 分で セットアップが出来ると書いてあった。しかし,セットアップには,1 ヶ月以上を要 した。5 分間のセットアップは,よく知っている人がインストールすればという条件 付きであることが分かった。何に手間取ったかというと,まず,インターネット用語 (例えば,ルータ・アドレス,デフォルト・ゲート・ウェイ等)が何を指すのかが分 からなかったこと,そのインターネット用語と IP アドレスとの関係が分からなかっ たこと,神戸大学のメインのコンピュータの IP アドレスやメイル・サーバの IP ア ドレスを知らなかったこと(誰に聞けば良いのかも分からなかった),どういう経路 で自分のコンピュータにつながっているのかというネットワークの構造自体が分から なかったこと(各地点の IP アドレスも分からなかった)等,ありとあらゆること全 部が誰に聞いて良いのかも分からない,しかも聞いたところで経済学部の誰も分から なかったという状況だった。また,ソフトによっても同じことが別の用語で説明され ていることも混乱の一因である。

インターネット用語と IP アドレスとの関係

インターネット関係の本を本屋で立ち読みしたり,「インターネット年鑑 95年度 版」,「INTERNET 6月号,7月号」という雑誌を買ってきたりして,付録の CD-ROM に入っているフリーウェア,シェアウエアのソフト(Trumpet Winsock, Almail, Winbiff)も調べながら,この間に重要な IP アドレスの番号がぼつぼつと私の耳に徐々 に入ってきたこともあって,ようやく,何とかつなげることが出来た。私の調べたと ころ,インターネット関連の用語について,正確なことかどうかは別にして,おおよ そ次のようなところであることが分かった。

同じもの(番号,または,IP アドレス)を指すのにいくつかの名前がある。これ もまた混乱の一つの原因といえる。すべては,IP アドレスで表される。どの IP ア ドレスを通って自分のコンピュータに流れてくるのかを知らなければ,インターネッ トをインストールすることは出来ないようである。

私のメール・アドレスはこんなに長い!

神戸大学の六甲台において,私の部屋(六甲台,第二研究棟の 208 号室)に インターネットをつなぐ場合,必要な IP アドレスは次の 4 つである。 それは,133.30.120.8(情報処理センターの神戸大学のメイン・コンピュ ータ,portkobe という名前が登録されている),133.30.36.10(六甲台第三 学舎 2 階の電算機室のメイル・サーバ,rose という名前のコンピュータ), 133.30.42.104(第二研究棟208号室の研究室の私のコンピュータ), 133.30.42.254(第二研究棟から外部に出る場合の通過点,すなわち,ルータ ・アドレス)である。当初,私が知らされていた IP アドレスは 133.30.42.104 と 133.30.42.254 の 2 つだけだった。今から思うと,この 2 つで インターネットをつなげることが出来る理由がないし,また,なぜ他の重要な IP アドレスを知らされなかったのか不思議に思う。

もう一つ不平を言わせてもらうと,六甲台第三学舎の 2 階のメール・サーバであ る rose の正確なアドレスは rose.rokkodai.kobe-u.ac.jp である。よって,私 の E-mail アドレスは tanizaki@rose.rokkodai.kobe-u.ac.jp である。誰がこんな 長い名前を付けたのか? なぜ,@ 以下を rokkodai.kobe-u.ac.jp としなかったの か? rose を付け加えた意味は何だったのか? 今だに,不明な点が多く残る。

何はともあれ,以上で,E-mail は使えるようになった。上記の 4 つの IP アド レス(ルータ・アドレスも含めて)だけで E-mail の他にも,Telnet, FTP, Gopher を使うことが出来る。しかし,NetNews を使うためには,上の 4 つの IP アドレス に加えて,新たに,ニュース・サーバの IP アドレスを必要とする。 この番号は 133.30.10.110(icluna という名前のコンピュータ)である。 この番号もかなり後になって知らされた IP アドレスである。

Telnet, FTP, Gopher, NetNews, WWW とは何であるのか

前述の通り,当初は,Telnet, FTP, Gopher, NetNews, WWW とは何であるのか知 らなかった。それらの内容を簡単に以下にまとめておく。

Telnet を用いて,例えば,神戸大学の図書館の本を検索することが出来る。ひと 昔前であれば,図書館に足を運んで,図書カードで本の場所を調べていた。Telnet を使うと,図書館まで行かなくても本の場所を調べることが出来る。しかし,私に言 わせれば,雑誌(和雑誌,洋雑誌共に)の場所を検索出来ないという欠点があり,片 手落ちの状態である。その他の使い方として,研究室から大型コンピュータにつなげ ることも可能である。このような自分が使っているコンピュータから他のコンピュー タにアクセスすることはリモート・ログインという用語として知られている。

FTP を用いると,必要なファイルを他のコンピュータから自分のコンピュータに コピーすることが出来る。例としては,あるソフトを購入する。マイナーなヴァージ ョン・アップは正規ユーザでも通常知らされない。そのソフトの会社のコンピュータ に直接アクセスして,パッチを引っ張ってきて,自分でヴァージョン・アップをする ことが出来る。有名なアメリカの Microsoft 社にアクセスして,いろいろなソフト を自分のコンピュータにコピーすることも出来る。

Gopher の定義を私はよく知らないが,面白いことに,経済企画庁にアクセスして ,最新の経済データのグラフを見ることが出来る。例えば,円ドル為替レートや GNP の動きがグラフで見れる。

NetNews では,自分の知りたいことを公に質問すると,不特定多数の誰かが答え てくれて,必要な情報を得ることが出来る。例えば,単純に,「WWW のいいソフトを どなたか教えて下さい」という質問を,誰にとはなしに聞いてみると,A さんという 人は「WinWeb というソフトを知っています。入手の方法は・・・」と答えたり,別 の B さんは「Netscape がいいと思います。入手方法は・・・」等と,NetNews を読 んでいる不特定多数の人から返事が返ってきて,自分の知りたいことが分かるという 方式になっている。

WWW を用いると,主に写真等の画像データを見ることが出来る。例えば,アメリ カの写真のコダックにアクセスすると(http://www.kodak.com),アメリカの国立公 園(ヨセミテやイエローストーン等)の景色が見れたりする。また,ニュース,天気 予報,観光案内等の情報も得られる。しかし,Chameleon には WWW が入っていない ので,FTP でソフトを入手しなければならない。WWW もいくつかのソフトがあり, NCSA Mosaic, WinWeb, WebSurfer, Netscape が有名である。いくつか試した結果, Netscape を使うことに決めた。FTP で Netscape 1.1N を手に入れ,インストールする 。その前の注意点としては,Win32s を前もってインストールする必要がある。

以上で,ようやく,自分の研究室からインターネットが使えるようになったと言 えるようになった。ここまで来るのに,約 2ヶ月を要した。赴任早々とんだ 災難だった。