公開講義|講義要旨

講義名

公開講義「グローバル化における日本経済・社会」 平成18年度2学期

講義要旨

「開講の辞」
大阪大学経済学研究科 研究科長 本多 佑三 氏

本多 佑三 氏

 


 第1回 10月3日

「IMD国際ランキングからみた日本の実力」
(株)三菱総合研究所 シニアエコノミスト 白石 浩介 氏(大阪大学客員助教授)

白石 浩介 氏

一連の講義の初回にふさわしく、世界の中で日本がどういう位置なのかをIMDランキングを通して確認していく。世界競争力年鑑(2006)での競争力指標と順位付けの方法についての解説から始まり、日本の強い面・弱い面、また、これまでのランクの推移を詳細に分析していった。この指標は・経済状況・政府の効率性・ビジネスの効率性・インフラの要因に分け、客観統計データのみならずサーベイ調査も加味されたもので、数字だけでは現せられない面がカバーされており、これからの日本はどの方向に力を入れていけばよいかを示唆するものと言えるのではないかと述べられた。
(注)IMD:Institute for Management Development (国際経営開発研究所)


 第2回 10月10日

「世界最先端の知財立国を目指して―放送と通信の融合をうけたデジタルコンテンツ戦略を中心に」
内閣官房 知的財産戦略推進事務局参事官 杉田 定大 氏

杉田 定大 氏

国として知的財産をどう護り、国内の産業を発展させていくかを、その推進体制から始まり、具体的な事例を多く紹介しながら解説された。デジタルコンテンツに焦点をあて、その市場動向から日本の重要産業と位置づけ、放送と通信の融合などその課題を浮き彫りにする。そのなかで、コンテンツ流通促進法(仮称)のアイディアを紹介し、知財の保護を訴えるとともに、諸外国の動向に合わせた対応が必要である。また、模倣品、海賊版の実態を事例紹介をしながら、世界の通商問題、安全問題であることを強調された。


 第3回 10月17日

「経済・金融のグローバル化概観」
(株)日本総合研究所 関西経済研究センター所長 吉本 澄司 氏(大阪大学客員教授)

吉本 澄司 氏

経済・金融のグローバル化の進行について、貿易、直接投資、金融の各面から整理した上で、日本の場合、グローバル化に起因する経済・金融に構造変化を促す流れに、更にプラザ合意以降の急激な円高進行、バブル崩壊の影響が加わったために、構造調整が長く、重く続いたことを指摘。しかし、有利子負債の削減、人件費の余剰解消、設備の余剰低下、即ち「3つの過剰」の解消、企業の経営改革の進行を受け、グローバル化を勝ち抜くための日本の再チャレンジが始まった点を強調。今後の課題として、TFP引き上げによる経済成長力強化、ハイテク産業の国際競争力強化、日本の国際金融市場としての地位強化を指摘され、その達成が重要と結ばれた。


 第4回 10月24日

「中国経済と中日関係」
中華人民共和国駐大阪総領事館 総領事 羅田 廣 氏

羅田 廣 氏

78年の人民公社解散に始まる改革開放路線からの高成長を続けてきた中国経済の足跡を振り返りつつも、巨大な人口をかかえる中国では、一人当たりの所得はまだまだ低く、更なる成長が必要と説く。そのためには、常に改革が必要。また、これまでの経済発展では資源・エネルギーの大量消費してきたが、量より質への変換が大切。経済発展には政治の安定が欠かせず、特に北東アジアの安定には中国・日本・韓国の信頼関係確保が必要で、日本とも相互の利益になる関係を強化していきたいと結ぶ。


 第5回 10月31日

「日本と欧州連合―これからの世界に望まれる強固なパートナーシップ」
グローニンゲン大学 日本研究センター長 リーン・セオドア・セーヘルス 氏

リーン・セオドア・セーヘルス 氏

日本-アメリカ-EUの三角形で、日本とアメリカ、アメリカとEUの関係は強いが、日本とEUの関係はさほどでもない。日本とEUの関係強化がこれからの世界発展には欠かせない。とりわけ、日本が東アジア地域化を中国と協調して推進することが大切であり、それにはEUが歩んできた独・仏協調を大いに参考にすべきであり、経済だけでなく、政治、教育などでもEUとの関係強化が望まれると強調された。


 第6回 11月7日

「グローバル時代におけるインベスター・リレーション(IR)について」
(株)フィナンテック シニアコンサルタント 藤中 達也 氏

藤中 達也 氏

グローバル化が進む中、わが国は金融部門が弱いといわれている。企業には、間接金融から直接金融を考える新しいグローバル経営が必要となり、IRの一層の強化が求められる。IRはコミュニケーションマーケティングであるとして、コミュニケーション能力の上げ、自社の適正価格を(フェアバリュー)を知り、それを高める必要性を説かれる。また、株式市場のマクロトレンドを概観し、日本の株式市場の売買のメインは外国人投資家が増加、ガバナンス体制強化、株主還元策などが重要課題となり、業績に見合ったIR戦略が重視されるべきと結ぶ。


 第7回 11月14日

「グローバル時代の市場競争秩序」
公正取引委員会 委員 柴田 愛子 氏

柴田 愛子 氏

ルールに基づき、「創意工夫して頑張った事業者が報われる市場」を目指して活動しているのが公正取引委員会であると不当表示、下請取引での親会社の地位利用、カルテル、談合など具体的事例を挙げて解説される。また、国際的にも競争法が先進国から途上国へと競争市場のルールが拡大しており、二国間協力の必要性が認識され関係強化が図られつつある。今年の1月に改正された独禁法の効果にも触れ、リニエンシー(減免制度)導入の意義・有効性についてもアメリカ、EUと比較しながら言及、ルールある公正な競争の促進のため、委員会の役割の重要性を強調された。


 第8回 11月21日

「日本の連結納税制度と日本版SOX法 」
公認会計士・税理士 妙中 茂樹 氏

妙中 茂樹 氏

公認会計士になった頃の体験談を通じての税制との関わりから話し始め、日本の連結納税制度の特徴を欧米と対比しての説明やこの制度の浸透状況を解説し、実務家らしく連結納税採用のメリット・デメリットを事例を挙げながら丁寧に説明されが、制度の簡素化が課題という。日本版SOX法は度重なる企業の不祥事を契機に「金融商品取引法」の成立に至るが、これまでの行われていた内部統制を、信頼度を高めるため、内部統制監査を従来の財務諸表監査と一体的に実施するもので、IT利用などその体制作りが急務である。また、実施状況のチェックといってもどこまでできるか限界のあること懸念される。


 第9回 11月28日

「世界の経済協力における競争と協調 ―ODAおよびOOFの変質と国益主義の台頭」
(株)三菱総合研究所 主席研究員・国際戦略研究グループリーダー 小林 守 氏

小林 守 氏

ODAやOOFなど対外経済協力の種類をわかりやすく図解し、経済協力における国益について説明する。わが国と欧米の政府の姿勢の違いを、いくつかの例を紹介しながら具体的に明らかにしていかれた。また近年、中国、ブラジルなどの「国益ビジネス」への参入として積極的に活動している例を挙げ、先進国と発展途上国との対立から問題解決のための国際ルールのあり方についても問題提起。さらに、わが国のこれからの経済協力はどうあるべきか考える糸口を提示された。


 第10回 12月5日

「EUの規範形成力 ―域内の欧州化とEU基準の世界標準化」
大阪大学国際公共政策研究科 特任研究員 八十田 博人 氏

八十田 博人 氏

EUとは何か?と国家でもない、単なる国際機関に留まらない法共同体、行政共同体と説き起こし、EUが築き上げてきた経緯からその仕組みや規範・規制を解説された。さらに今後の行方として、欧州機関の権限強化で各国の国内制度や政治も変容していくだろうと述べる。また、EU標準が世界標準と広がっていく分野もあり、その影響力も増すと見る。EUは経済分野に限らず総合的な規範形成力を持っており、アジアでの共同体構想にも、EU同様にベースになっている普遍的な価値追求が必要であると結ばれた。


 第11回 12月12日

「オーストラリアと日本の経済事情」
在大阪オーストラリア総領事館 総領事 マイケル・ジョン・クリフトン 氏

マイケル・ジョン・クリフトン 氏

日豪の貿易関係は羊毛の取引から始まったが、現在においてはオーストラリアにとっては日本以上に大きなウエイトを締めており、品目についても鉱工業製品から農産物、食料品、木材に至るまで幅広い取引の実態を解説する。今年は日豪友好協力基本条約締結30周年を記念して「日豪交流年」としたことに触れ、文化的、社会的な面での活発な交流にも話が及ぶ。聴講者との質疑など意見交換で、さらなる理解へのきっかけに努められた。


 第12回 12月19日

「グローバル化時代における生命保険会社の今日的な株式運用」
日本生命保険(相) 株式部長 櫛部 哲男 氏

櫛部 哲男 氏

生命保険会社の資金運用としての株式投資の特徴として、長期投資であることの話から始まり、グローバル化における日本企業の事業展開の進め方を展望、事業特性見極めた長期戦略を持った企業が長期的に成長すると指摘。その考えに従った投資戦略を行うと自社の株式運用の姿勢を語られた。


 第13回 1月9日

「郵政民営化の是非を問う」
衆議院議員 三谷 光男 氏

三谷 光男 氏

まず、郵政民営化関連の法律と民営化へのプロセスの概要を移行期、民営化実現と解説し、本来あるべき民営化の姿とは何か? との問いかけから始まる。「民で出来ることは民に!」の合言葉で進められる郵政改革は、国が行うべき仕事は何か? 民に委ねていく仕事は何か? の仕分けのはず。郵貯銀行やかんぽ生命により民業圧迫になってはならない、と説き、郵政民営化の今後の進め方、特に郵貯、かんぽの行う業務について注意が必要である、と説く。「国がやっている余計な事業はやらない」方針でスリムな行政に持っていけるよう今後も主張していきたいと結ぶ。


 第14回 1月16日

「外交官から見た米日の関係」
駐大阪・神戸米国総領事 ダニエル R. ラッセル 氏

ダニエル R.ラッセル 氏

外交官として仕事を進めるうえで重要なことは、まず「聴くこと」、アジア、日本に対する政策を考えるにも、相手を正しく理解する必要がある。次に、「喋ること」、米国の考えていることを理解してもらえるように話すことと語り始める。 日本に望むこととして、経済の早期回復と日本の世界における地位の向上を挙げ、アジアのお手本となってほしいと要望される。聴講者から、京都議定書の未批准や地球温暖化防止への消極的姿勢に対する批判意見にも、科学的対応の努力を強調、技術開発などに取り組んでいる例を示すなど相互理解に努められていた。


 第15回 1月23日

「日本化した?タイの地方」
チュラロンコン大学 助教授 ウォーラウェーット・スワンラダー 氏

ウォーラウェーット・スワンラダー 氏

2007年は日タイ修好120周年。これまでの交流の形態の変遷を眺め、これまでの、モノ、技術、貿易、直接投資から人、ODAによる人的資本の形成、さらには日本的なものがタイ国内に浸透しつつある様子を解説する。さらに、タクシン政権時代の経済政策で、地域格差、所得格差を問題にし、その改革のため、日本を見習ったOTOP(タイ版一村一品運動)政策が取り入れられ、一応の成果が得られている。今後も、タイは日本に関心を持ち、知的な部分を吸収し、「日本の成功・失敗」に学ばなければならない。


「閉講の辞」
大阪大学経済学研究科 教授 / OFC運営委員長 福重 元嗣 氏

福重 元嗣 氏

 

講義風景

  • 会場風景

*記載している肩書きは、講義当時のものです。
*上記の講義要旨はOFC運営委員会・事務局の責任で編集したものです。

このページの上部へ戻る