第17回OFC講演会
★東京待兼会(阪大経済学部同窓会東京支部)の秋季懇話会と共催で行いました。
演題
「企業家精神のまち・大阪」
開催日時/場所
平成16年10月8日(金)午後6時半~ / 東京 学士会館
講師
大阪大学大学院経済学研究科 教授 阿部 武司 氏
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会場風景
講演要旨
大阪大学のルーツは周知の通り懐徳堂と適塾とされているが、昭和6(1931)年に大阪帝国大学が創立されたのちの沿革があまり知られていないまま、世人の関心は、ナノ・テクノロジーや生命科学の拠点としての阪大の評価へと飛んでしまっている。本日は経済学部を中心に、阪大の歴史を振り返りつつ、その発展が関西経済界に強力に支援されて初めて実現したことを明らかにした。
まず大阪帝大の前史として大阪府立大阪医科大学と大阪高等工業学校(大阪工業大学)の歩みを年表に即して説明し、明治期からのちの医学部と工学部になる2つの学校が卓越した高等教育・研究機関であったことを強調した。
昭和6年5月に、折からの昭和恐慌の影響もあって政府支出金がほとんどないなかで、大阪医科大学、大阪府および塩見理化学研究所から調達された寄附金に支えられ大阪市北区中之島に大阪帝国大学が発足した。当初は医学部と理学部のみであったが、後者に関しては初代総長長岡半太郎が、湯川秀樹氏をはじめとする優秀な研究者を全国から集めた。昭和8年には大阪工業大学が工学部として取込まれた。
国庫金にほとんど依存せずスタートした阪大は当初から産学共同であったが、昭和9年設立の微生物病研究所(微研)と14年設立の産業科学研究所(産研)は民間の寄附なくしては設立されなかった。戦後でも阪大の附置研究所や研究センターの設置や活動は財界からの寄附に支えられた面が大きかった。
人文・社会科学系の学部の併置、すなわち総合大学化は、阪大創立以来の懸案であったが、戦後の昭和23(1948)年9月における法文学部設置に際して第5代総長今村荒男の貢献は大きかった。昭和24年5月阪大が新制大学になると同時に、法文学部は法経学部と文学部とに分離したが、経済学に関しても優秀な教授陣が招聘された。その際も、大阪の経済界とのパイプが太かった今村総長が大きな役割を果たした。今村は、飯島幡司や関桂三の推薦を受けて高田保馬を経済学科の中心人物に据え、高田は近代経済学を中心に気鋭の優秀な学者を集めた。
昭和28年に法経学部は法学部と経済学部に分離し、29年には附属研究施設として社会経済研究室(のちの社会経済研究所。社研)が設置された。40年、経済学部に経営学科が設置されたが、この改組の背後には本学部経営学関係スタッフの啓蒙活動を評価する大阪工業会や大阪商工会議所など大阪財界の支援があった。
昭和32年に設立された財団法人阪大経済研究協会は、前身の阪大経済懇話会(27年12月設立)以来、阪大における経済学研究の発展をはかるとともに、学界と経済界との間の知識の交流に大きく貢献した。41年、本学で第4番目に設立された文科系唯一の研究所、社会経済研究所の独立への支援をはじめ、阪大経済研究協会はその後も経済学部、社研を財政面等で支え続けたが、経済学部および社研がもはや援助の必要がないまでに発展したという認識に立って平成15(2003)年3月に解散した。
昭和63(1988)年の創立40周年、平成10年度の創立50周年に際しても関西経済界は、同窓会とともに阪大経済学部に対する募金活動を積極的に行い、50周年の場合、不況下にもかかわらず2億円余りの募金が寄せられ、それに基づきOpen Faculty Center(OFC)も平成10年度に設置された。
昭和62年の関係文部省令の改正により国立大学に寄附講座を設けることができるようになり、経済学部はそれにいち早く対応し、平成2年度から6年度までの5年間、野村證券投資信託委託株式会社による寄附講座「投資信託」が設置された。次いで平成3-7年度、「国際協調(大阪ガス)」、5-9年度、東京海上火災保険株式会社による寄附講座「リスクと情報の経済学」がそれぞれ設置され、教育・研究両面における多大な成果を可能にした。
そのほか平成5-7年度、他大学に先駆けて、大阪工業会からの奨学寄附金による公開寄附講義「フィランソロピーの理論と実践」の開講を皮切りに、9-10年度にはPHP研究所・日本開発銀行・監査法人アイ・ピー・オーの協賛を得た公開講義「ベンチャービジネス」が、10年度には社団法人近畿税理士会からの奨学寄附金に基づく公開寄附講義「租税改革と租税理論」、および郵便貯金振興会からの奨学寄附金に基づく公開寄附講義「NPO概論」がそれぞれ開講された。その後も現在に至るまで公開寄附講義は実施されている。
大阪大学では経済学部だけでなく理系諸部局も設置当初から関西経済界の強力な支援に支えられて発展を続けることができた。この良き伝統が今後も継承されることを願ってやまない。
*この講演要旨は、講演者本人が講演の原稿をもとに作成したものです。