第2回OFC講演会

演題

「基調講演・シンポジウム 経営における破壊と創造 ―松下の事業部制解体をめぐって―」

開催日時/場所

平成13年2月23日(金)午後6時半~ / 梅田センタービル

講師

基調講演者:松下電器産業(株)経営企画室長 上田 勉 氏
コーディネーター :大阪大学大学院経済学研究科 教授 宮本 又郎 氏
パネリスト:松下電気産業(株)経営企画室 調査研究グループ 副参事 繁田 明男 氏
      大阪大学大学院経済学研究科 教授 浅田 孝幸 氏
      大阪大学大学院経済学研究科 助教授 小林 敏男 氏
(司  会 :大阪大学大学院経済学研究科 教授 高尾 裕二 氏)

会場風景

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講演要旨

第1部 基調講演―松下電器産業(株)経営企画室長上田 勉 氏


 本日は、松下電器産業株式会社の2001年4月から開始される中期経営計画「創生21計画」の中で、事業部制をどう変えていくのか、製造業をどう変えていくのかを中心にお話をしてみたい。

 松下電器は、世界でも非常に早い時期(1933年)に「事業部制」を採用し、現在ではグループ全体で126の事業部が存在している。松下の事業部制の特長は、①商品別事業部制、②開・製・販一体、③製造プロフィット制、④自主責任経営であり、その利点としては、①企業家精神の高揚、②個別最適による競争優位の確立および③技術の継承といった点を指摘することができよう。

 このような「事業部制」のもとで、80年代までの事業展開がなされてきたわけであるが、90年代に入り、東西冷戦の終結、IT革新等に起因して「グローバル・ワン・マーケット化」が進み、株主価値の重視、ビジネスにおけるフェアネスの認識など、アメリカ流のグローバル・スタンダードが浸透してきている。

 このようなグローバル競争という環境下にあって、日本企業のとるべき対応として以下のことが考えられる。

 1)まず、コスト競争力の再構築、とうことである。この製品は、どこで作ればよいかといった世界最適地生産体制、連結経営からみたグローバル・バランスでの収益確保、日本における高コスト構造の是正、といった課題が、ここに含まれる。 
 2)次いで、新しいビジネス・モデルの選択、が重要である。実際、「スマイル・カーブ」としてしばしば指摘されるように、利益の源泉は、完成品から、部品や完成品を通じたサービスに移行してきている。また、このような状況下にあって、経営の「重さ」・「遅さ」からの脱却が求められている、といえよう。
 3)さらに、グローバル適応力の向上、が不可欠である。世界中のステークホルダー(株主・顧客・取引先・・・)とのコミュニケーションを重視し、グローバルな技術開発競争でリーダーシップを発揮し、顧客密着型のソリューション・ビジネスを展開して行かなければならない。そのためには、人事・経理などのシステムを変革する一方で、ビジネス・リーダーとなりうる人材の育成を図ることが重要である。
 4)最後に、グローバル・ビジネス・ルールへの対応、という課題がある。会計基準・倫理基準の設定、特に経営活動を積極的に開示していくことが求められており、これに呼応して、企業の自律を図り、コーポレート・ガバナンスの発揮が必要とされているのである。

 一方、市場の方は、これまでの企業がモノを作り、消費者にお届けするというTエコノミーから、商品知識に精通したお客様がインターネット等を通じて要望を明らかにし企業に注文するというeエコノミーへと変化していくことが予想される。つまり、顧客主導型ビジネス・モデルへの大転換である。このような経営環境の激変により、個別最適の限界、自前主義、ハード志向という事業部制の弱点が顕在化してきたのも事実である。

 製造業が生き残るため松下電器では従来の事業部制を改革し、「超製造業」への自己革新に取り組んでいる。
 「超製造業」の要件は
① 強いデバイス事業の創造
② スピーディーなモノづくり
③ お客様本位のサービスを起点としたビジネスの展開
の三点と考えている。

 これらの目標を実現するために本年4月より「創生21計画」をスタートする。
 「創生21計画」の骨格は、破壊(構造改革)と創造(成長戦略)の推進である。

 成長戦略の展開の一つは、事業ドメイン・セグメントの見直しである。これまで、民生・産業・部品から成り立っていたセグメントを、映像音響・情報通信からなるAVCネットワーク、家庭電化・住宅設備といったアプライアンス、産業機器のインダストリアル・イクイップメント、これに部品であるデバイスの4つの事業分野に加えて、これらを合わせてシステムとして提供していくシステム・ソリューション、さらにはネットを用いたeネットビジネスの六つの事業をドメインとして展開していきたいと考えている。成長戦略にあわせた収益構造の観点から、デバイス-機器(AVCネットワーク、アプライアンス、インダストリアル・イクイップメント)-サービス(システム・ソリューション、eネットビジネス)に区分し、それぞれに高収益構造の仕組みを確立すべく努めたい。「スマイル・カーブ」の意味するところ、デバイスとサービスが収益の重要なポイントとなるであろうが、機器分野の収益性も確保していきたいと考えている。

 4月に松下電器と松下電子工業(株)の合併を予定しているが、構造改革としては、各分野ごとの事業特性により、開・製・販一体をより強化する場合もあれば、製造を分離し、ファクトリー・センターとしてモノづくり機能を統合する場合もある。つまり事業特性別の組織を確立し、これにあわせたマネジメントの改革を推進していくことにしている。

 以上、松下電器では、「超製造業」を目指しているわけであるが、その背後には、「どのようにして製造業を日本に残していくのか」についての大きな危機感がある。強いデバイス、スピーディーなモノ作りおよびサービスの三つの視点で、強い力をつけ、製造業を日本に残していきたい、と思っている。



第2部 パネルディスカッション


コーディネーター
宮本又郎氏 大阪大学大学院経済学研究科教授
パネリスト
上田 勉氏 松下電器産業(株)経営企画室長
繁田明男氏 同上 経営企画室副参事
淺田孝幸氏 大阪大学大学院経済学研究科教授
小林敏男氏 大阪大学大学院経済学研究科助教授


宮本又郎氏(コーディネーター)
では、パネルディスカッションを始めることにいたします。先程のお話では、必ずしも事業部制の解体ということではなく、全体的な経営改革のお話であり、日本の電機業界の背景にあるものを、すべて解決しようという大きな改革のように思います。私なりに電機業界の環境変化を整理しますと、アセンブリーがモノ作りの中心ではなくなったこと(スマイル・カーブ)、技術や事業が融合し、複合的な商品が多くなってきたこと、消費者が自らが欲しいものを求める時代になったこと、の三つです。このような経営環境の変化から、従来の事業部制にはある種欠陥がみえてきたこと、これらの変化に全部答えるために、製造業をやめる「脱製造業」ではなく、製造業を超える「超製造業」を目指し、日本の製造業を残すのだ、これが今回の松下さんの経営改革の本質である、というのが上田室長のお話の重要な点だったと思います。経営を専門にされているお二人の先生方はいかがでしょうか。

小林 敏男氏(パネリスト)
講演をお聞きして思うことは、アナログ・エイジからデジタル・エイジへの転換とそれへの対応です。デジタル・エイジの特徴は、いろいろありますが、しばしば見逃されているのがコピー技術の向上です。写真をとって、そのデータを利用すればモノ作りは即可能になります。ここで、モノ作りそのものから、それを土台にしたサービスへの転換を余儀なくされることになるわけです。他方では、先程のお話にも出てきましたが、世界でベストのデバイスをどこがもっているのか、それをどのように組合せたらいいのか、といったデバイス・コーディネーションが求められるようになってきます。知識化していく産業の中でのモノ作りの特性を踏まえて、アナログ事業部からデジタル事業部への変換を図ろうとされている、と理解しています。

淺田孝幸氏(パネリスト)
創造と破壊の中で一番気になるのが、従業員の混乱です。日本はいままで暗黙知でやってきたと思いますが、やはりトップの走る方向が非常に重要であり、それにあわせて、業績管理制度が作られることになります。大きく方向が変わっていくとき、従業員の業績評価といった制度をどういう方向にもっていこうとしているのか、なかなか答えにくいと思いますが、私が従業員なら、やはりこの点が一番気になるところです。もう一つ、大量生産・大量消費の時代は終わり、コンテンツとかいった「見えないところで儲ける」仕組みを作らないといけない。例えば、GEは、ファイナンスで、それをやろうとしているわけです。松下さんは、サービスの仕組みとして、モノ作りを超えるモノ作りを考えていらしゃる。ただ、ソフトとかコンテンツは、個人のアイデアが重要であり、チームで力を発揮する日本人は苦手であるといわれますが、この辺のところ、どのようにお考えなのか、可能であればお聞かせ頂きたいと思います。

上田勉氏
小林先生のお話のように、技術融合、グローバル競争などに起因して、開・製・販をやっている会社から、いろいろな形態の会社が生まれてきており、事業部制の中身を大きく変えていかなければならない時代です。いままでフルセットと自前主義をとってきたが、事業の選択と集中をして行こうと思うし、多様性とか価値観をもっと大きく捉えていくという取組みが必要だと強く感じています。浅田先生の話された従業員の評価については、これから一番難しいところになっていくと思います。春闘の時代は過ぎ、業績がよければボーナスに反映させるといった傾向が指摘されますが、今後、このような個人の創造性をより高める仕組みで競争していくことになると思います。それから、新たなサービスを創出する商品づくりや納品からバージョンアップ、メンテナンス、サービスとその商品の生涯にわたってお客様をサポートすることが大切であると思っています。


繁田明男氏(パネリスト)
松下電器の社員という立場を忘れてお話したいと思います。「超製造業」で掲げた三つを、松下グループだけでやってしまおう、それを今の組織体制を変えずにやろうとの考え方が強すぎるのではないかと感じています。例えば、EMSのソレクトロンとシスコシステムズのネットワークで繋がれた関係です。シスコシステムズは、モノを全く作らず、製造はソレクトロンに委託して、ネットワーク上で注文する。ソレクトロンは、シスコシステムズから受注があれば、直ちに、最も安価な部品を調達し、生産・配達するし、他社の商品も作る。シスコシステムズは開発と設計だけで儲けるし、ソレクトロンはモノ作りだけで大儲けをする。このようなビジネス・モデルを、松下グループの中だけで本当にできるのか、と私は疑問に思っているわけです。法制度が次第に整備され、分割・合併も重い税負担なしに行えるようになりつつあります。これからの会社は、この法制度を活用し、総合企業から脱皮すべきではないかと思うのです。デバイスに、開発に、あるいは製造に特化し、他社も含め強いバリューチェーンを構築し、それでもってグローバルな競争を勝ち抜いていくことが重要だと思っいます。

[その後の熱心な討論とフロアからの質問・応答も、大変興味深いものでしたが、紙面の制約により省略させて頂きます]

宮本氏 
どうも長時間ありがとうございました。今日のお話は、単に松下電器一社だけのお話ではなく、すべての日本企業、製造業に通じるものだと思います。松下電器の改革は、歴史的な大規模のものであり、首尾よく成功を収められ、多くの企業によい先例を示して頂きたく、益々の松下電器のご発展をお祈りして、本日のパネルディスカッションを終わりたいと思います。ありがとうございました。
(文責・高尾、梶田)

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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