第31回OFC講演会
演題
「プレゼンテーションにおける非言語コミュニケーション」
開催日時/場所
平成21年6月10日(水)午後6時半~ / 梅田センタービル
講師
大阪大学大学院経済学研究科 教授 高橋 伸光 氏
講義風景
講演要旨
プレゼンテーション(以下、プレゼン)において、確かに内容も大切であるが、それと同時に伝達技術と伝達効率をも考える必要がある。デリバリー・スキルがうまくないかぎり、いくらすばらしい内容でシナリオを構築してもオーディエンスにメッセージは届かない。メッセージ伝達手段からみるとデリバリー・スキルには、言語と非言語の2種類がある。今回の講演ではこの2種類のうちの「非言語」を取り上げる。
MehrabianとFerrisは話し手の態度を推測する際に、音声、顔(写真による)、言葉の手がかりとを対比する実験を行った。その結果は、顔の表情のインパクトが最大で、次が声の調子(音声の表現)、最後が言葉であった。この実験が示唆しているのは、人間の態度や性向を推定する場合、非言語の方が、大きなウェイトを占めるということである。この実験結果をわが国で多くの研究者や人材研修のインストラクターたちがよく引用している。しかし往々にして幅広く解釈されたり誤解されているのが散見される。また実験方法によって制約を受けていることも確実であろう。
プレゼン教育では、数ある非言語要素をすべて網羅することはできない。プレゼンでは、非言語のうち、Mehrab
ianらが示すように、動作(表情や目の動きを含む)と音声であるパラ言語(ポーズ・沈黙を含む)の2つが最も大きな役割を果たす。この2つに焦点を絞って理論や研究結果を学習し、その上でプレゼン実践を行っている。
理論(基礎)を学んで経験を積む、である。今回、この2つの非言語とそれを支える研究や理論を紹介する。
1. 動作(Kinesics)
非言語メッセージの大部分は、視覚を通して受け入れられる。視覚的なメッセージを送る身体の動作(身体言語、ボディ・ランゲージ)の研究である「動作学」(Kinesics)の手法や成果をプレゼンに利用しない手はないであろう。
非言語行動の「身体動作」を分類したのが、EkmanとFriesenである。身体動作を、起源、機能、メッセージ化された行動に基づいて、(1)表象動作、(2)例示動作、(3)情動表出動作、(4)調整動作、(5)適応動作の5つに分類し研究している。
2. 目の動き(Eye Behavior)
アイ・コンタクトの主たる機能について、プレゼンでは、ArgyleとDeanの研究論文の中心である親和葛藤理論を取り上げる。アイ・コンタクトが生起する過程には、接近と回避の両方が働く。これらの2つの力関係には一定の均衡レベルが存在し、この均衡点は intimacy(親和度・親密度)に関連する。
彼らは、Intimacy = f (eye-contact, physical proximity, intimacy of topic, amount of smiling, etc.) という公式を考え出した。
3. パラ言語 (Paralanguage)
(1) パラ言語と性格(気質)判定: 話し手の性格や気質のはっきりした特徴が、パラ言語で実際に判定できるかを調べるために実験が行われてきた。その中で、Addingtonの研究を取り上げる。それによると、第1に、性格や気質に応じて、声すなわちパラ言語は変化する。例えば、高さ、テンポ、スピード、抑揚、声の質のような特徴と関係がある可能性が高い。第2に、判断を下す最大要因は、判定者の心の中にあるステレオ・タイプ概念である。判定者は、話し手の真の性格と合致するより、むしろかなり一貫して判定者たち同士の間でその判定は合致する。第3に、判定者は、いろいろな声の特徴に対して下した性格特性に対しては、かなり正確である。声の特徴で、性格の認識を変えてしまうこともできる。
(2) パラ言語と感情(情緒)の判定: 話し手が我々の目に見えない場合でも、その語る言葉以外にも音声的要因からわかることが多い。声の大きさ、高低、スピード、その他の特徴が、感情をよく伝えているのである。J. R. Davitzと L. J. Davitzは、怒り、恐怖などの10種類の感情を判定者にアルファベットの音声から感情を識別させた。その実験を紹介する。
(3) パラ言語と人物特徴の判定: パラ言語により人物の性別、年齢、身体(体型)、職業、地位、社会階層、人種などの人物特徴を判定するものである。プレゼンでは、聴覚とともに視覚があり、オーディエンスは視覚から性別、身体(体型)、人種などの人物特徴の情報を得ることができる。
非言語コミュニケーションが情報伝達過程の言語面と、ほどくことのできないほど入り組みあっているので、分離できたとしてもそれは人為的なことに過ぎない。現実にはこのような分離は起こらない。そのようなダイナミックな「相互作用」と「相互依存」は言語・非言語体系について言えるばかりではなく、非言語コミュニケーションのさまざまな領域についても言える。ただコミュニケーションの過程を分割し、構成部分を研究しておくことは、複雑なコミュニケーションの現象を統合して研究する際に大いに寄与するものである。
*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。