第40回OFC講演会

演題

「原子力について」

開催日時/場所

平成24年6月2日(土)午後5時~ / 東京 学士会館 202号室

講師

(株)東芝 電力システム社 原子力事業部 原子力企画室 企画第五担当
担当部長 坂下 嘉章 氏

坂下 嘉章 氏

プロフィール

H3年 大阪大学工学部原子力工学科卒業。
H5年 大阪大学大学院工学研究科電磁エネルギー工学専攻博士前期課程修了、修士(工学)。
(株)東芝 入社。
H18年 (株)東芝 原子力事業部 原子力技術部 プロジェクト第二担当。
H20年 (株)東芝 原子力事業部 原子力技術部 海外プロジェクト第一担当。
H21年 (株)東芝 原子力事業部 原子力技術部 海外プロジェクト グループ長。
H23年 (株)東芝 原子力事業部 原子力福島復旧技術部 プロジェクト第三担当。
同年7月、原子力福島復旧技術部の新設に伴い同部へ移動。
現在に至る。

講義風景

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講演要旨

 本日の講演での意見や見解は、全て私個人のものであり、特定の企業や団体を代表するものでもないし、政策提言等を意図したものでもない。毎日のように福島第一原子力発電所やエネルギー政策に関する様々な報道がなされているなか、今後、皆さんが原子力やエネルギーについて考えるに当たり、少しでも参考となればと思う。

1.原子力とはそもそも何だったのか
 我が国が原子力発電所の導入と利用を意思決定した時、1956年に国の計画として「原子力長計」という原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画が策定された。その骨格に、「国産化」と「増殖型動力炉」が読み取れる。早期導入のためには外国技術を積極的に導入、原子燃料についても、「やむを得ない場合は不足分を輸入」と表現、再処理技術も国内技術を目指した。つまり、海外から制約を受けるリスクを可能な限り減らし、高速増殖炉と再処理による「準国産資源とすること」が当時の目標であった。現在の原子力長計は、2005年に閣議決定された「原子力政策大綱」である。「地球温暖化対策に貢献」の観点の追加や、エネルギー自給率が4%しかないことを踏まえての「持続可能社会」も盛り込まれている。海外輸入リスクが大きいと「持続可能」とは言い難い。
 その他に基本情報として、エネルギー自給率の各国比較や、世界のエネルギー需要や価格の動向、石油、石炭、天然ガスなど一次エネルギーの資源別の消費割合、各資源の確認可採年数の比較を示したが、一つのポイントは、日本には原発が50基有り、基数発電量とも米、仏に続いて世界第3位で、世界の年間ウラン需要の10%以上を使っているのに、ウラン資源保有量は世界の僅か1.7%しか確保できておらず、脆弱な点である。「増殖型動力炉」は軽水炉のシステム構成と比較して見ると、特徴は、減速材が原子炉の中に無い。ナトリウムを冷却材に用いることで、核分裂で発生した高速の中性子を減速しないよう工夫している点である。日本と世界の原発の状況を見ると、ほとんどが軽水炉であるが、増殖炉をとの方針は今日まで続いている。
 次に、原子力の多面性という意味で、温暖化対策への貢献について見ると、原子力への期待はたった6%。その他は、二酸化炭素を捉えて貯蔵するCCSや、再生可能エネルギーへの期待となっている。だが、この6%の期待がどんなものか。1950年代から建設を開始した原発は、今日までの約60年の間に500基以上が建設されているが、6%に応えるためには、今後2050年までに世界で1000基以上の原発を建設しなければならない。
 原子力に付きまとうもう一つの側面に、平和利用と核不拡散がある。国際的枠組みとしてIAEAの査察制度、核不拡散条約があるが、各国の利害が入り組み、世界情勢は複雑である。

2.福島第一原子力発電所の事故収束・安定化
 写真等により、原発の被災状況やサイトでの安全管理や現場作業の状況を紹介。事故直後から、東京電力内の対策室での常駐に加え、東芝の本社やエンジニアリングセンター、工場、などをネットワークで繋ぎ、24時間体制を構築した。加えて、米国企業と協力関係を構築し、米国拠点とのネットワーク化を図り、使える技術の情報を集め、評価し、体制を組んで、短納期、高性能の要求に応えるよう事故収束・安定化の対応に当たってきた。ステップ2までの工事物量は、配管やホースが2万m、ケーブルが25万m、配管の溶接シーム数は1万3千箇所、対応者は延べ人数で、エンジニアリング、工場部隊が8万人日、現地作業で9万人日にのぼった。緊急時被ばく上限の100mSv超過者はゼロ、重大な労災もゼロであった。これら活動の中には、米国のShaw社やIHIと協力して納めた汚染水からのセシウム除去設備SARRY(サリー)も含まれる。また、福島第一の外でも、ガンマ線を可視化するガンマカメラを環境条件に合わせて改良するなどの技術開発を行った。ガンマカメラにより除染すべきスポットを特定することで廃棄物の削減にも繋がり、除染後の状況を可視化することで住民の方々の安心にも繋がると考えている。
 これらの取り組みを通じて、3.11以降に感じたことをデータや図表を用いて少し触れる。例えば、原子力安全への国民の信頼性失墜、発電・送電網の損傷やガス・石油の広域パイプライン不完全など災害時のエネルギー供給システムがいかに脆弱だったかとか、冷静・忍耐・助け合い・思いやり・職務責任といった良い点や、風評被害・判断力の欠落・責任追及のみに終始、といった悪い点など日本人の気質について、放射線被ばくの影響を正しく認知できるか、正しく恐れることができるか、といった点など。
 次に、3.11以降の日本の国の様々な動きについて紹介。新しいエネルギー計画の政策を検討する場として、「エネルギー・環境会議」があり、その下に、関連する相互に独立した審議会が置かれている。エネルギー基本計画は、「総合資源エネルギー調査会」の下の「基本問題委員会」で議論、改革の方向性は、「原子力発電への依存度のできる限りの低減を基本的方向として議論する」とされている。
 新しい原子力政策大綱を議論するのは、「新大綱策定会議」、新しい原子力の安全規制を担うのは、新設予定の「原子力規制委員会・規制庁」、規制当局の独立化は、海外からも望まれている形である。電気料金の改定は、「総合資源エネルギー調査会」の下の「電気料金審査専門委員会」で議論されている。資源の集め方は、その巨額さゆえに「広く・浅く」しかないであろうが、安定化費用を電気料金に転嫁するか、税金で担うかと議論が割れている。電力の小売自由化や発送電分離は、「電力システム改革専門委員会」で議論されている。
 産業界の問題についてもデータ等で触れるが、産業にとっては、あまねくエネルギーが必要である。産業空洞化の危機として、高い賃金コスト、高い法人税率などとともに、震災以降電力供給不安が指摘されている。多くの企業が海外展開を検討しているのは自然な流れと言える。日本と韓国の産業用電力価格差は、火力発電シフトで更に開くことになる。そんな日本のエネルギー政策の議論状況を尻目に、世界各国の原発新設に向けた動向がどのようになっているか、日本には何が期待されているのかを紹介した。

3.思うこと(おわりにかえて)
 原子力は多面的に議論し、扱うことが肝要である。自分なりの視点を考え図式化すると、横軸に「資源の視点」「環境の視点」「国際関係の視点」、縦軸には、「グローバルな視点」「日本の視点」「時間軸の視点」とし、それぞれの軸が交差した箇所で、原子力を考える時に重要なポイントを列記してみる。このように、資源の規模的に、海外輸入リスク的に、純国産化の可能性など、原子力と対比させて考えるべき非在来型資源の開発など様々なキーワードがあり、多面的に考えねばならない。
 震災以降感じたこととして、日本人の気質についてもその観察を述べた。気質の問題だけではないかもしれないが、現実には、例えば以下のような対立がある。
 「新エネルギー利用拡大 vs 高い電気料金は反対」、「安定電力を安価に、潤沢に使いたい vs リスクのある原発反対/CO2放出反対」、「被災地の復興を急ぐべき vs 他自治体ガレキ持込み反対、福島の野菜・物産の購入は避ける」、「大都会で電力を大量消費 vs 事故時の広域被害が心配なので原発起動反対」などなど。これらをどのように合意形成にもってゆくのか、新たなチャレンジである。

 最後に、3月に亡くなられた吉本隆明さんが震災後の最晩年に、「原発を止めるのではなく、その危険性防御策を完璧に近づけていくべき」と主張し、脱原発に傾く世論に一石を投じた際の言葉を紹介する。資源は、「選択」などと言った生易しいものではなく、国際的、長期的視野に立った「探求」だと感じている。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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