第41回OFC講演会
演題
「日本の課題 ~社会保障と税の一体改革~」
開催日時/場所
平成24年11月14日(水)午後6時半~ / 大阪大学中之島センター7F 講義室703
講師
財務省 近畿財務局長 池田 篤彦 氏
講義風景
講演要旨
「社会保障と税の一体改革」は、国民の安心を確保し、世代を問わず一人ひとりが能力を発揮できるとともに、全ての人がより受益を実感できるよう、社会保障の充実・安定化とそのための安定財源確保と財政の健全化の同時達成を目指すものである。平成24年8月10日には、国会において関連法案が成立したが、その取組みや必要性、今後の課題について話を進める。
○近年の社会・経済の変化と一体改革
まず、現行社会保障制度の基本枠組みが構築された1960年代から今日までに、制度の前提となる社会経済情勢の大きな変化を確認する。その変化は、少子高齢化、雇用環境の変化、家族のあり方の変容、経済成長の停滞などが挙げられ、社会保障と税の一体改革は、社会保障の充実・安定化と財政健全化という我が国にとって待ったなしとなった2大目標を同時に実現するための改革と考えている。そのために、消費税率5%の引上げ(約13.5兆円)が必要となる。
○社会保障の維持・充実
これまでの急速な高齢化に対して、年金・医療・介護は、最大限の対応をしてきて、給付水準は概ね先進国並み、医療は世界第1位の評価を受けているが、今後の急速な高齢化で、やがて、「一人の若者が一人の高齢者を支える」厳しい社会が訪れる。高齢者数の増大により、現在のサービス水準を維持するだけでも、税金投入を毎年1兆円増加させる必要がある。この財源確保ができなければ、社会保障制度維持は困難となる。一体改革は、この高齢化に対応する財源を確保し、制度の維持を図ろうというものである。現在の社会保障の大きな問題は「サービスを受けたくても受けられない」方々の存在であり、この問題に対応・充実させるために財源(消費税率1%分)を確保する。また、世代間の公平の見地から、「全世代対応型」へと変換し、就学前、学齢期、若年層から高齢期までを通じた一貫した支援の実現を目指す。医療・介護の分野では、医師不足の解消や在宅医療・介護の充実を図るなど取り組むべきことは多くある。社会保障の充実・安定化は、信頼できる制度確立で将来の不安を取り除き、所得や貯蓄が消費に回り、経済成長へと好循環が期待され、社会保障分野での雇用創出・経済活性化が図れる。
こうした改革による安定財源確保が将来世代への負担の先送りにストップをかけ、財政の健全化にも貢献することになる。
○財政の健全化
我が国の財政は、毎年多額の国債発行が積み重なり、国際的にも最悪の水準にあり、財政危機の発生を防ぐため、GDPとの対比で債務残高が伸び続けないよう収束させていくことが重要である。財政健全化のために残された時間はあまりない。現在、日本国債の大部分は国内投資家が保有しているが、信用を失い、政府が借入を継続できなくなれば、財政危機に陥る。2015年には、団塊の世代が65歳に達し、支える側から支えられる側になり、改革は待ったなしの状況になる。
○税制の抜本改革
今回の一体改革は、「社会保障制度の安定財源の確保と財政健全化の同時達成」への第一歩として、消費税の引き上げを柱とする税制全体を通じた改革を行うものである。世代間・世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築、そして、我が国の経済・社会の変化に対応し、新たな日本にふさわしい税制全体の姿を実現させようと考えている。
○なぜ消費税なのか
消費税の特徴として、税収が景気や人口構成に左右されにくく安定、働く世代など特定の者に負担が集中することなく経済活動に与えるひずみが小さい、財源調達力が高いなどが挙げられるが、これらは、公平性や財源確保の観点から、社会保障の財源調達手段にふさわしいと考えられる。
○消費税率引き上げ
消費税収(国分)は、法律上、全額社会保障目的税化や税率の引き上げを段階的に行ったり、引き上げにあたって低所得者層へ配慮した施策を講じたりと、国民の理解が得られやすいよう手段を尽くす。
○税全体を通じた改革
消費税以外の税については、個人所得課税は所得再分配機能の回復、格差是正、法人課税では、実効税率の引き下げ、相続税、贈与税の見直しで、格差是正や若年世代への資産移転促進など幅広く税制体系全体のバランスを考えた改革を進めていく。
消費税率引き上げにあたって、政治改革・行政改革への取り組みを並行して進めなければならないし、低所得者への配慮、引き上げの景気への悪影響を及ばさぬよう、経済への配慮、課税の適正化や価格転嫁がスムーズに行われるよう見守ることなど十分手を尽くして環境整備していかねばならない。社会保障・税番号制度も早期に導入を図る必要があると考えている。国民の皆さんの理解をもとめるよう、しっかりと説明していきたい。
*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。