経済活動の最終目的は,生活の質(物や環境・安全もふくめたサービス)の向上であり,お金は単なる手段であることを忘れてはならない。 発展途上社会と成熟社会では経済の前提が大きく異なる。発展途上社会では,物もサービスも社会資本も足りないものばかりであり,需要不足の心配なく,官民一体での「生産力増強」が成長戦略となる。 一方,成熟社会では,すでに十分な生産力があり,需要不足の状態に陥ってしまう。いかに新たな需要を創出し,非競合品の開発を進めるかがおおきなポイントとなる。
ここで,2つのグラフに注目したい。
1970年から1990年前半までハイパワードマネーは40兆円まで増加し,CPIも30から100へ。ただし,それ以降マネーは3倍の120兆円まで増加したが,CPIは横ばい。
図2では,1980年から1990年初めまでマネタリー・べースが20兆円から40兆円に伸びる中で名目GDPも250兆円から500兆円まで伸びたが,それ以降マネーは120兆円まで増加したにかかわらず,名目GDPは横ばいの状態で推移している。
このことは,アベノミクスで言われる金融緩和による需要回復というシナリオが過去20年間全く機能していないことから, 本当に効果があるのか疑わしい。成熟社会では,お金の分配ではなく,需要・雇用創出の政策が求められるのである。
そこで,具体的に考えねばならぬこととして,次のようなことがあげられる。
○生産力増強ではなく,生活の質の向上に結びつく「非必需品」の需要創出こそが必要なのである。すなわち民間企業のやれない,芸術・観光・教育関係や介護・健康等高齢化社会に必要なもの, 環境・再生可能エネルギー関係の社会資本の高度化・耐震化などに資金を使うべきである。
○年金制度改革も,現在検討されている「受給年齢引上げ」,「消費税など財源確保」,過渡期の 「退職年齢引上げ」などの政策では,現役世代から高齢者への所得移転に過ぎず,若者からお金と仕事を奪うことになってしまう。
○むしろ,介護・健康・観光等を新産業として力を入れ,現役世代の雇用と所得を増加させ,そのことによる消費刺激, 経済拡大,そして税収増加を狙うべきで,高齢者には現金の代わりに「目的別有効期限付きクーポン」を支給しそれを利用することで需要を増やし, 若者にはお金と仕事を与えるような政策を取るべきである。
現行の政策は,一時的な効果が期待できるであろうが,持続した経済成長路線に導くかとの問いには,疑問を呈さざるを得ない。
*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。