第45回OFC講演会

演題

「消費税増税後の日本財政」

開催日時/場所

平成26年5月28日(水)午後6時半~ / 学士会館2F 202号室

講師

慶應義塾大学経済学部 教授 土居 丈朗 氏

土居 丈朗 氏

プロフィール

  • 1993年大阪大学経済学部卒。1999年東京大学経済学研究科博士課程修了博士取得。 1998年東京大学社会科学研究所助手。1999年慶應義塾大学経済学部講師。助教授、准教授を経て、2009年教授、現在に至る。この間、政府・地方自治体の各種審議会、研究会の委員を歴任。
  • 専門は財政学、公共経済学、政治経済学。
  • 「アリとキリギリスの日本経済入門」(2003年)、「地方債改革の経済学」(2007年、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞)など著書多数。

講義風景

  • 会場風景
  • 会場風景

講演要旨

 社会保障・税一体改革関連法案が成立したのは2012年8月、2013年8月には社会保障制度改革国民会議が報告書を提出し、社会保障・税の一体改革が本格的に取り組まれだした。税制では、消費税率引き上げが与野党3党合意で決着し段階的に引き上げることとなり、本年4月に8%実施、2015年10月に10%とすることでスタートしたが、この増税分を社会保障4経費(子ども・子育て支援、医療、介護、年金)の財源にのみ使用することを引き上げの条件として国民に理解を求めたのである。
 この消費税増税の社会保障財源の確保の姿(税率10%になった時点)を図示し、2012年度と2017年度を比較すると、2012年度は社会保障費がおよそ30兆円必要なところ、税からは10兆円しか賄えず21兆円は国債などで賄った。一方最終5%増税により14兆円税収は増加するが、予想される社会保障費充実、高齢者の自然増などで、38兆円の支出が見込まれているので、まだ19兆円は国債などで賄う状態は継続せざるを得ない。
 今回の3%増税は社会保障の充実のため早速、子育て支援への予算配分や医療、年金負担分へ充てることにしている。その社会保障について、それぞれ問題点の概略をみると、医療では、高齢者医療をどうするかが課題のひとつである。高齢者に多額の医療保険が使用されている点が指摘されている。年齢階級別の一人当たり医療費は確かに高齢者の使用額は高いし個人の負担は少なく、若年層では使用額は少なく保険料負担が多くなっている。これを改善するため、2008年に従来の老人保健制度から後期高齢者医療制度が導入され、75歳以上の人を対象の独立制度となった。この制度でこれまでの過疎地域、都市部の保険料格差5倍から、都道府県別一律保険料として2倍程度へ地域格差が縮小したが、まだまだ改善の余地はありそうである。
 また、医師不足については、人数は1994年と2010年を比較すると、トータルでは1.27倍増えているが、都市部と過疎部の偏在、診療科別でも、内科、外科、産婦人科では1割前後減少するなど診療科による偏在が問題である。我が国の医療制度の特徴のフリーアクセス、自由開業制・自由標榜性を尊重した枠組みの中での改革は難しいが、このように医師の配分、ベッド数などの見直しを進めるとしている。
 介護保険では、今国会で議論されている制度改定では、支出抑制の一環で全国画一サービスからニーズに応じたサービス提供を市町村別にする。一定以上の所得のある利用者の負担割合を引き上げるとか介護認定のランク分け変更などを盛り込んだ改訂が今国会で決められる見通しである。
 年金制度も2004年の制度改定を経て今日に至っているが、5年に一度の「年金の見直し(100年安心の年金)」が来月にも発表される予定である。保険料引上げや年金運用利回りの適正化を、過度に期待しない財政検証が望ましい。
 今後の税制では、法人税実効税率の引き下げが、安倍内閣での大きな課題であり、6月には方針が出される予定だが、財源をどうするかがポイントになるだろう。
 最後に、消費税が当初計画通り、2015年10月に10%へと引き上げられるのかが大きな問題である。引き上げか否かは2015年予算案編成時に最終決断されるだろう。つまり、2014年12月に最終決断する。その時の景況情報は2014年7~9月期成長率であろう。その点でこの7~9月の景況が一つの天王山と言えるだろう。

*講演内容は講演実施時点のものであり、現時点では実態に合わない部分があろうかと思いますが、ご了承ください。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

このページの上部へ戻る