第50回OFC講演会

演題

京都観光の『ヒ・ミ・ツ』

開催日時/場所

平成27年9月9日(水)午後6時半~ /大阪大学中之島センター7F 講義室703

講師

株式会社時有人社 代表取締役 清水 宏一 氏

プロフィール

  • 1945年生まれ、株式会社時有人社代表取締役。
  • 元京都市観光政策監。
  • 同市で人権問題、生涯学習、イントラネット、デジタルアーカイブ、観光立国などのプロジェクトを主導した。
  • 退任後は、大学教授として国際観光学部の新設に尽力。(株)時有人社を設立。

講義風景

講演要旨


○観光産業の広がり
 観光が産業化されたのは、つい最近のことである。観光関連産業は基盤がとても広く、全体としての広がりが意識されなかったからだ。観光関連産業は投資額の少なさと投資効率の大きさに特徴がある。比較的に小規模な投資で、資金回収が早く、地場産業との深いつながりを持ち、職住近接型の産業であるからこそ、産業意識が生まれなかった。すなわち、輸送や倉庫の経費が不要であり、地域振興と地産地消の構造を持つからだ。
 だが、その経済効果は抜群で、2013年における旅行消費による経済効果は、旅行消費額は23.6兆円、雇用誘発効果は224万人、波及効果を含めた雇用誘発効果はなんと419万人にものぼる。今年は日本ブームで海外からの観光客が一段と増えたため、統計数字は大きく跳ね上がるに違いない。

○観光立国
 そのように経済波及効果の大きい観光産業だが、我が国がはっきりと「観光立国」をめざすようになったのは、かなり新しい。近隣諸国が熱心に観光客誘致に動く中、我が国が具体的な動きを示したのは、2003年に小泉元総理が「観光立国」を宣言し、「観光立国懇談会」を主宰、ビジット・ジャパン事業を開始したのが初めである。ようやく2006年に観光立国推進基本法が成立し、2007年に観光立国推進基本計画が閣議決定され、2008年に観光庁が設置されるに至る。それまでの政府がいかに観光を軽んじていたかは、観光庁の設置に先立つ2005年になってはじめて有識者からなる「観光統計の整備に関する検討懇談会」を設置したことからもわかるが、2010年になってやっと「共通基準に基づく観光入込客統計」が本格稼働し始めたのである。しかしながら、調整に手間取って、未だに完全な全国統計には手が届かないのが現状である。

○京都市観光客5000万人構想
 京都市において観光政策を市の重点目標に置いたのは、桝本元市長である。市長2期目の公約として、当時4,051万人だった入込観光客数を10年間に1,000万人増やして5,000万人にすると宣言したのだ。この公約は早くも8年目にして見事果たされ、5,000万人を上回る観光客が京都市を訪れた。観光客増加の背景としては、閑散期対策として展開した「花灯路」、「京の夏の旅」、「京の冬の旅」など戦略的な観光振興策に加え、「京都観光振興会議」、「おこしやす大学」、「修学旅行勧誘」などの地道な活動とともに、ソウル、北京、台北、ニューヨーク、メルボルンの海外5都市に京都事務所を設置し、積極的な外国人客誘致を始めたことなどがあげられる。また、NHK大河ドラマ「新撰組」、「義経」、さらには「心の時代」や「日本文化」への静かな「京都ブーム」が後押しをしたのも間違いない。

○統計の大事さ
 だが、一番の要因は京都市が確かな統計数値を持っていたことである。京都市は1948年から綿々と続けてきた「京都市観光調査」の詳細なデータを持っていたことだ。戦略を立てるには調査や探査が必要で、まず敵を知り己を知ることが大切だ。ヒト、モノ、カネの条件整備をするには、世間を納得させることが必要で、確実な統計数字を示す必要がある。 その上に立って、戦術を練り、最適化を図ることである。  統計から見えてきたことは、京都への観光客は女性客が圧倒的に多いこと、年齢層は高年齢が多いこと、リピーター客が多いことに加えてオンシーズンとオフシーズン、平日と休日とのムラが際立っていたことだ。 ここに戦略が生まれる。オフシーズンや平日にイベントを仕掛け、日帰り客より宿泊客、団体客より個人客に焦点を絞り京都ブランドを鮮明にし、景観や雰囲気を向上させ、夜の観光に重点を移し、案内表示を統一し、交通渋滞を解消することに努めることである。

○4つのセン
 おかげさまで京都市は、業界内で「京都の奇跡」、「京都の一人勝ち」と呼ばれた観光ブームを作り出すことができた。「その秘訣は?」と、当時も今もよく質問される。そのたびに私は「4つのセン」の話をする。4つのセンとは、戦略、宣言、宣伝,先鞭で、起承転結でなされたこれらの方策が身を結んだのだと思っている。 まずは1年に200万人増すれば10年で5,000万人達成という単純で明快な「戦略」のもと府、市、業界を一体とする大胆な大目標を「宣言」し、大企業や旅行業界とタイアップして時流に乗った「宣伝」を行い、徹底した現状分析とニッチやムラに重点を重ねて、どこよりも早く「先鞭」を付けるというものだ。
 このことが効を奏して、いち早く入込観光客5,000万人を達成することができたほか、観光への認識を高め、観光立国政策を誘導し、儲かる観光を実証できたと考えている。

○観光政策監
 私は2004年に観光政策監を拝命したが、それは全国で初めての観光政策監であった。私の後任にはこれまで3人の観光政策監が京都市に誕生しているが、いずれもが女性である。彼女らの「おもてなし」の心と繊細な気配り、そして粘り強い対応が変わらぬ「京都観光ブーム」を支える力だと考え、深く深く感謝している。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

*講義で使用したレジュメはコチラ

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