第51回OFC講演会

演題

「地球温暖化COPの歴史とパリ協定~協定をめぐる外交の裏側」

開催日時/場所

平成28年5月27日(金)午後6時半~ /学士会館(東京一ツ橋)2F 講義室203

講師

外務省参与 地球環境問題担当大使  堀江 正彦 氏

プロフィール

  • 1969年大阪大学経済学部卒業。
  • 1971年チューレイン大学経済学修士課程終了。
  • 1973年大阪大学法学部を卒業し外務省に入省。
  • 2012年4月より 外務省参与(地球環境問題担当大使)、明治大学特任教授、筑波大学客員教授、
    京都大学特任教授などを務めるとともに、国際自然保護連合(IUCN)理事、
    国際連合「万人のための持続可能なエネルギー」(UN/SE4ALL)の諮問委員会のメンバー
    でもある。

講義風景

講演要旨

<パリ協定のハイライト>
 昨年12月のCOP21で採択された「パリ協定」の有する意義の中で最も重要な点は、これまで先進国のみが排出削減義務を負ってきた京都議定書と違い、途上国を含む全ての締約国の排出削減目標の提出を義務としたことであり、ダーバン・プラットフォームに言う「全ての締約国に適用される」新しい枠組み協定が成立したことである。
 温室効果ガスの排出に関しては、各締約国はそれぞれの排出削減目標を提出し、その実現のために必要となる国内措置をとることに合意した。各締約国はその排出削減目標を5年ごとに見直して提出すること、各締約国の排出削減目標の実施に関する個別レビューを実施することを受け入れた。
 途上国にとって最大の関心は、資金問題であった。途上国は、2020年以降1,000億ドルという資金額を下限として、2020年以降も「先進国は公的資金にて積み上げるべき」ことを要求した。これに対して、先進国側は強く抵抗した結果、先進国は条約上の義務として資金供与することは継続するが、途上国も自主的に資金供与することが奨励される旨、資金動員については、先進国が、様々な資金源からの資金動員について主導的役割を果たすべきことを受け入れた。

<議長国フランスの外交力の発揮>
 フランスは、コペンハーゲンの失敗を繰り返さないことを絶対的な目標として、外交的知恵を最大限に働かせ、大いに工夫した舞台作りを行った。
 まず、通常2週間にわたるCOPでは「最終段階」で登場する締約国の首脳を、「初日」に集結させ、高邁な弁舌を奮わせるという奇想天外な仕掛けに出た。そしてオバマ大統領、習近平主席、安倍首相を始めとする各国首脳が帰国した段階で、ファビウス外務大臣がCOP21議長としてリーダーシップを発揮し、第2週目の予定を土曜日まで1日延長した上で、閣僚レベルで妥結させることに成功した。
 また、最終日に至るまで、交渉テキストに対する各締約国の修正要求はドラフティング・セッションを設けることなく文書での提出を求め、これを集約させながら3回にわたり議長テキストを作成するプロセスをとった。そして3番目の議長テキストは、最終版であるとの触れ込みで配布した上で、最終日となった土曜日の午前に全体会合を招集し、ファビウス議長、オランド大統領、潘基文UN事務総長などが、COP21が成功裡に終了することになったことを喜ばしく思う旨のスピーチを行うセレモニーを開催した。
 恰も合意が成立したかのごとき「最終的な感動セレモニー」を演出した上で「パリ委員会」を開催し、誰も文句をつけられない雰囲気を醸成した上で、最終採択の場に持ち込んだ訳であるが、至る所で議長国フランスの外交力が大いに発揮されたCOPであった。

<日本の対応>
 わが国は、温室効果ガスの排出削減目標については、2030年度に2013年度比で26%削減する「約束草案」を提出した。
 この26%削減は、1970年代に2度の石油危機を経て、化石燃料から脱却するために最大限の努力を行い、世界に冠たるエネルギー高効率経済を構築したこと、東日本大震災により原子力政策の厳しい見直しが迫られていることなどを勘案すると、今後2030年に向けて真剣な努力をしなければ実現できない極めて野心的な目標である。
 日本は、途上国支援として2013〜15年の3年間も、160億ドル以上の約束をするだけでなく、2014年半ばにはその目標額を超える協力を実施して、途上国より大いに感謝されている。今回は安倍総理が、我が国の途上国支援を2020年に官民合わせて現在の1.3倍の約1.3兆円にすることを表明された。

<今後の展望>
 気候変動は、人類の生存がかかる重要かつ喫緊の地球的課題であり、先進国も途上国も、全ての国と全ての国民が協力して対処していく必要がある。
そうした観点からは、「パリ協定」は、我が国がダーバンで主張したとおり、先進国だけでなく、途上国も含む全ての締約国に適用されるものとなったことは、極めて喜ばしいことである。
 しかしながら、国連における気候変動交渉の大きな問題は、すべての締約国が2030年に向けて温室効果ガス削減目標達成のため最大限の努力をするとしても、摂氏2度目標を達成する経路には乗っていないことが、判明している点である。
 そうした中にあって、この「野心ギャップ」を埋めることのできる一つの可能性は技術革新であるが、COP21で発表された世界の研究開発予算の80%を占める20カ国が5年間でそれぞれの研究開発予算を倍増させる「ミッション・イノベーション」と、世界の28人の投資家が初期段階の技術を活用して市場参入を図りたいと考える企業の商業リスクをカバーする「ブレークスルー・エネルギー同盟」は画期的な試みと言えよう。
 日本としては、自らの削減目標達成の努力のみならず、温暖化に対処する途上国を支援し、世界のエネルギー効率改善にも貢献することにより、世界的レベルで、地球温暖化を抑制していくことが、期待されている。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

*講義で使用したレジュメはコチラ

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