本講演では、まず最初に、景気回復を続ける日本経済の動向を俯瞰したうえで、足下の関西経済の動向や課題等について、説明していきたいと思います。
最初に日本経済の動向からみていきます。足下の景気拡大局面は、「いざなぎ景気」を超え、戦後最長になったとみられています。また、今回の景気回復局面では、景況感の地域間格差が小さい、あるいは、中小企業への波及度が高いといった特徴がみられているところです。
安倍政権の下で景気回復が続き、GDPが順調に増加するなど、各種経済指標が改善しているわけですが、政府としては、引き続き、企業収益の拡大、設備投資の拡大、賃金の増加、消費の拡大という経済の好循環を実現することにより、デフレ脱却と持続的な経済成長を実現していく戦略としています。
経済の好循環を実現するうえで重要になる経済指標について、足下の動きをみていきます。企業収益及び設備投資の拡大に関連するところですが、法人企業統計調査でみると、企業の経常利益は2009年を底に右肩上がりで増加し、過去最高水準となっているほか、設備投資額もリーマンショック前の水準を回復しています。
賃金については、政労使会議等において、政府から経済界に対して、賃上げについて前向きな取組みを要請しているところであり、春闘の妥結結果をみても賃上げの動きは着実に広がってきています。ただし、企業の収益改善に伴い内部留保は厚くなっており、現金・預金等の手元資金も増加している状況にありますので、企業の収益改善を更なる賃上げや設備投資の拡大に、如何につなげていくかということが、政府としての重要な課題の一つになっています。
次に、デフレ脱却との関係で注目される物価動向をみていきます。
消費者物価指数は、昨年、生鮮食品やエネルギー価格が主導する形で上昇していましたが、年末にかけて生鮮食品や原油価格の下落により上昇率が鈍化しました。企業物価指数をみると、素材原料、中間財の上昇が続いていますが、最終消費財の伸び率が小さくなっており、川上の物価上昇がまだ最終消費材の価格に十分に波及していない状況がみてとれます。今後、企業物価の上昇が消費者への販売価格などに転嫁され、消費者物価指数の上昇に如何に波及していくのかということが、注目すべきポイントです。
いよいよ、本題、関西経済の動向をみていきたいと思います。
まず、最近の関西経済の動向に入る前に、少し古い時代から中長期的な視点で関西経済をみておきたいと思います。
近畿の県民総生産の全国シェアをみると、大阪万博が開催された1970年の19.3%をピークに低下傾向となり、東京一極集中等を背景として、足下15%台まで低下しています。また、近畿の事業所数は1990年代から2000年代にかけて全国や東京圏を上回るペースで減少しているほか、本社機能の東京移転などにより、近畿に本社を置く大企業法人数は、2000年から2016年の間で約半減しています。このような状況の下で、長年、関西経済の「地盤沈下」といったことが言われてきたところです。
しかしながら、最近の関西経済の動向をみると、「地盤沈下」と言われた状況から局面が変わりつつあるのではないかと思います。当局が四半期毎に公表している管内経済情勢報告では、平成30年1月判断から、総括判断を「緩やかに拡大しつつある」としていますが、「拡大」という表現を用いたのは平成3年のバブル期以来となっており、足下の関西経済は着実に力強くなっています。
このように最近の関西経済を押し上げている要因のひとつとして、旺盛なインバウンド需要が挙げられます。近畿を訪れる訪日外国人は2017年に1,207万人まで増加、その旅行消費額は1兆円を超える規模になっていると推計され、いずれも全国や関東を上回る伸びをみせています。こうしたインバウンド需要は、百貨店などの小売業だけでなく、ホテル建設の活発化、商業地価の上昇など、幅広い分野で関西経済に良い影響をもたらしています。
また、インバウンド以外にも、ベンチャー企業などの起業・創業や、研究開発投資、海外企業の進出の活発化といった点でも、関西経済に明るい兆しがみられています。
最後に今後の見通しですが、関西では、G20首脳会合、ワールドマスターズゲームズ、大阪・関西万博など、大きなイベントが予定されています。特に、2025年大阪・関西万博の開催は、関西経済の明るい兆しを後押しする契機として、大きな期待が寄せられています。1970年の大阪万博の頃の状況を振り返って考えると、次回万博に向けて、外国人の受入体制整備や、建設需要の増加に伴う人手不足などの課題が想定されます。今後、万博開催に向けた準備が進められるわけですが、様々な課題を政府、地元自治体、経済界が一丸となって解決し、関西経済の成長につなげていくことが重要ではないかと思います。
*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。