第60回OFC講演会

演題

消費税率引き上げ後の関西経済等の現状

開催日時/場所

2020年2月20日(木)午後2時30分~ /大阪大学中之島センター7階 講義室703

講師

近畿財務局 総務部 経済調査課長 中田 慎一 氏

nakata

プロフィール

    平成3年4月に大蔵省(現:財務省)近畿財務局に入省。
    平成6年7月から平成12年6月まで本省主計局にて予算編成等に携わる。
    その後、近畿財務局にて総務系統や金融系統など幅広い業務を歴任。
    平成23年7月金融監督第1課上席調査官、平成25年7月理財部主計第2課上席主計実地監査官、平成27年7月金融調整官、平成29年7月統括金融証券検査官などを経て、
    平成30年7月から現職。

講義風景

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  • 講義風景2
  • 講義風景3

講演要旨

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 本講演では、まず最初に、日本経済の動向を俯瞰したうえで、足下の関西経済の動向や課題等について、説明していきたいと思います。
 最初に日本経済の動向からみていきます。安倍政権の下、政府は、企業収益の拡大、積極的な設備投資による生産性の向上、賃金増加などによる消費の拡大という経済の好循環により、デフレ脱却を確実なものにするとともに持続的な経済成長を実現していくべく各種施策を実施してきたところです。足下の景気拡大局面は、「いざなぎ景気」を超え、戦後最長になったとみられています。毎年のように猛威を振るう台風などの自然災害や国際情勢の影響を種々受けながらも、GDPは順調に増加するなど日本経済は緩やかに成長してきました。
 経済の好循環を実現するうえで重要になる経済指標について、足下の動きをみていきます。企業収益及び設備投資の拡大に関連するところですが、法人企業統計調査でみると、企業の経常利益は2009年を底に右肩上がりで増加し、過去最高水準となっているほか、設備投資額もリーマンショック前の水準を回復しています。
 賃金については、政労使会議等において、政府から経済界に対して、賃上げについて前向きな取組みを要請しているところであり、春闘の妥結結果をみても賃上げの動きは着実に広がってきています。ただし、企業の収益改善に伴い内部留保は厚くなっており、現金・預金等の手元資金も増加している状況にありますので、企業の収益改善を更なる賃上げや設備投資の拡大に、如何につなげていくかということが、政府としての重要な課題の一つになっています。また、昨年10月の消費税率引き上げの影響については、政策効果もあって2014年の消費税率引き上げ時に比べ駆け込み消費が小さく反動減の戻りも早いと見込まれますが、消費マインドの動向には今後も注視が必要です。
 いよいよ、本題、関西経済の動向をみていきたいと思います。まず、最近の関西経済の動向に入る前に、中長期的な視点で関西経済をみておきたいと思います。
 近畿の県民総生産の全国シェアをみると、大阪万博が開催された1970年の19.3%をピークに低下傾向となり、東京一極集中等を背景として、足下15%台まで低下しています。また、近畿の事業所数は1990年代から2000年代にかけて全国や東京圏を上回るペースで減少しているほか、本社機能の東京移転などにより、近畿に本社を置く大企業法人数は、2000年から2016年の間で約半減しています。このような状況の下で、長年、関西経済の「地盤沈下」といったことが言われてきたところです。
 しかしながら、最近の関西経済の動向をみると、「地盤沈下」と言われた状況から局面が変わりつつあるのではないかと思います。当局が四半期毎に公表している管内経済情勢報告では、平成30年1月判断から、総括判断を「緩やかに拡大しつつある」としていますが、「拡大」という表現を用いたのは平成3年のバブル期以来となっており、足下の関西経済は着実に力強くなっています。
 このように最近の関西経済を押し上げている要因のひとつとして、旺盛なインバウンド需要が挙げられます。近畿を訪れる訪日外国人は2018年に1,241万人まで増加、その旅行消費額は1兆円を超える規模になっていると推計され、いずれも全国や関東を上回る伸びをみせています。こうしたインバウンド需要は、百貨店やドラッグストアなどの小売業だけでなく、ホテル需要の増嵩、商業地価の上昇など、幅広い分野で関西経済に良い影響をもたらしています。
 インバウンド需要が関西経済を牽引する大きな原動力となっているなか、昨年は韓国人訪日客の減少が連日報道を賑わせました。関西国際空港着の観光客数を見ると、韓国人訪日客は2018年7月頃から減少に転じ、2019年10~11月期では対前年同期比▲66%の減少となっています。一方で、2018年10月以降、中国人訪日客は一貫して増加しております。中国人訪日客は韓国人訪日客に比べ旅行1回あたりの滞在期間が長く、また、買物により多くのお金を使うことから、旅行消費額でも韓国人訪日客を上回る状況にあります。韓国人訪日客の減少を中国人訪日客の増加が補って余りある状況にあり、これまでのところ、インバウンド需要は好調を維持しています。
 このように、関西経済が中国を始めとするアジア諸国の影響を受けやすい構造になっているなか、足下では中国で発生した新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、訪日観光客の減少による売上減少や部品等供給網・販売網の混乱による生産活動の停滞等、経済への悪影響を懸念する声が随所で聞かれるところです。引き続き経済に与える影響をしっかりウォッチするとともに、今後、関西で予定されている、ワールドマスターズゲームズ、大阪・関西万博などの大きな国際イベントを実施するにおいても、これらの課題を政府、地元自治体、経済界が一丸となって解決し、関西経済の成長につなげていくことが重要ではないかと考えております。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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