第64回OFC講演会

演題

街の中の、暮らしの中の経済学

開催日時/場所

2021年10月15日(金)午後2時30分~ /阪急グランドビル26階 会議室5・6号室

講師

大阪大学大学院経済学研究科 講師 新田 啓之氏

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プロフィール

    1987年 京都大学大学院工学研究科交通土木専攻終了。同年、三菱総合研究所に入社。官公庁を中心に、都市・交通問題、政策評価、廃棄物・リサイクル問題など幅広く従事。その間、同社関西センターで「淀川水系流域委員会運営業務」や「元気UP関西」などのプロジェクトに取り組む。また、岐阜県のシンクタンクやグループ会社で総務・人事部長として採用を経験するなど様々な業務も。2019年4月より、大阪大学大学院経済学研究科に出向し、主にインターンシップの授業を担当。

講義風景

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講演要旨

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 この講演では、みなさんに経済学の難しい理論ではなく、日常の中で他の誰かに話したくなるような親しみやすい話題を提供したいと思います。

 まず、最初に、この20年、最も失われたものは何でしょうか?
 家計調査という統計を見ると、世帯全体(2人以上で仕事をしている世帯)の実収入は、2000年から減少、その後増加し、2018年には2000年並みに回復しています。その中で、世帯主(多くはお父さん、夫)は減少(-28,387円)、世帯主の配偶者(多くはお母さん、妻)が増加(+35,089円)しています。社会保障等の支出は増加(+16,653 円)、消費支出は減少(-36,085円)し、その大半(-32,802円)が、お小遣い、交際費である“その他の消費支出”です。一方、貯蓄が増加(+106,137円)しています(コロナ前の2019年も数字は違いますが同様です)。夫の減収を、妻の増収と不要不急の支出(小遣い、交際費)の削減で補い、貯蓄を純増させている、そんな働く世帯の姿が見える気がします。
 翌月以降の引落されるクレジットカードなど増加や新型コロナの影響もあるでしょうが、将来への不安から消費を増やす気になれないでしょうか。“お父さんの小遣い”を戻してあげれば失われた20年は取り戻せる、そんな簡単な話ではないかもしれません。社会構造も変化など単純に比較できないかもしれませんが、みなさんの実感に合っているでしょうか?

 次は、飲食チェーンのスターバックス(スタバ)の店舗の話です。都心ではお洒落なビルに集中し、郊外では鉄道沿線の“家と職場の間の駅”に立地することが多いようです。
“集中して立地”することをドミナント戦略と言います。近すぎる店舗はお客さんの奪い合いになりそうなのに、どうしてこのように集中させるのでしょうか。メリットの1つは、認知度の向上です。「ここにもスタバがある」という風に存在を認知してもらう戦略です。もう一つはコーヒー豆などの配送効率です。店舗の距離が近いと、分散するよりも1日で回れる店舗の数が多くなり、コストが抑制されます。さらに、 “もう入り込めないぞ!”というライバルへの牽制もあります。
 鉄道沿線の“家と職場の間の駅”に立地するのはなぜでしょうか?
 スタバのコンセプトの一つに、サードプレイスというものがあります。もとは、アメリカで唱えられた学説ですが、家庭(第1の場所)、職場・学校(第2の場所)ではない、3つ目の場所を指します。コミュニティから離れ、自分という個に戻るための場所。家から会社や学校に行き、そして家に戻る、その途中にある駅。ONとOFFの切り替えるサードプレイスにピッタリだと思いませんか?みなさんのサードプレイスは、どこでしょうか?

 最後に、みなさん、ご存じ、大人気の551蓬莱の豚まんです。
 私が考える人気の秘密は、“美味しさ”、“思わず買う仕組み”、“お土産に最適”の3つです。
 “美味しさ”へのこだわりの1つとして、モチモチの生地があります。豚まんの生地はセントラルキッチンと呼ばれる工場ですべて作られ、各店舗にその日の販売分のみを配送します。作り置きはしません。美味しい生地になるためには発酵が必要ですが、発酵しすぎるとダメになります。その限界は生地が出来てから150分。それより遠い地域は美味しさが損なわれるため出店しない“こだわり”。近い店舗は工場である程度発酵させ、輸送している間にベストな状態なるよう工夫しています。
 思わず買う秘密は、豚まんを蒸す湯気ではないでしょうか。これは、私にとっては行動が誘発される“ナッジ”の1つです。また、「やっぱり、豚まんは蒸したてや!」と言いながら買ってしまいます。行動経済学でいうバイアスだらけの私が、自分自身を納得させる言い訳です。先日も湯気と蒸したてに魅かれて豚まんを買いましたが、家に帰ると冷めていました。電子レンジで温めながら自分の愚かさを嘆きました(笑)。
 お土産に最適な理由は“美味しさ”のため関西以外に出店しないことで生まれた“稀少性”です。ここでしか売ってないからこそ「買って帰ろう」という気になります。チルドの通販もありますが、お土産はやっぱり手渡しに限ります。また、お土産として“買いやすい”よう出張者や旅行者の多い新大阪駅に5店舗が集中しています。これらが551蓬莱の豚まんを大阪を代表するお土産の1つに押し上げたと思います。
 関西限定の蒸したて豚まん。東京にも進出すべきか、みなさんはどう思いますか?

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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