第69回OFC講演会
演題
SDGsと貿易-フェアトレードを中心として
開催日時/場所
2024年5月31日(金)午後6時00分~ /学士会館(東京一ツ橋)2F 203号室
講師
大阪大学名誉教授・中央大学経済学部教授 阿部 顕三 氏
講演要旨
本懇話会では、SDGs(持続可能な開発目標)について概説し、その目標に貢献するフェアトレードについて話した。まずSDGsとは何か、日本における取り組み事例、日本の達成度などSDGsに関する説明を行った。次に、SDGsとフェアトレードとの関係、フェアトレードの仕組み、世界と日本のフェアトレードなど、フェアトレードについて話した。
SDGsは、持続可能な開発のために2015年の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際的な目標である。ここで、持続可能な開発とは、「将来の世代がそのニーズを充足する能力を損なわずに現世代のニーズを充足する開発」とされている。それは、世界全体の経済・社会・環境の課題を総合的に解決する国際目標であり、17の目標、169のターゲット、232の指標から成る。例えば、目標1は「貧困をなくそう」であり、目標16は「平和を公正をすべての人に」となっている。さらに、各目標により具体的なターゲットが定められており、さらにその指標が示されている。
SDGsの大きな特徴は、国、NGO(非政府組織)、アカデミア、企業、個人などすべてを主体と考え、その目標の達成に取り組むことである。これに対して、2001年から2015年までのMDGS (ミレニアム開発目標)では、国とNGOが主体であった。現在、企業の経営指標として「持続可能な」事業活動が取り上げられ、持続可能な商品の供給などに取り組んでいる企業もある。また、大学でも様々な取り組みを行っており、例えば大阪大学では2024年度から学部生向けのプログラム「OU-SDGsプログラム」を開始している。世界や日本での大学ランキングを作成しているTimes Higher Educationは、研究・教育を基準とした従来のランキングに加え、University Impact RankingsとしてSDGsへの取り組みを基準にランキングを作成している。ちなみに、従来のランキングでは日本の中で大阪大学は4位(2024年)、Impact Rankingでは6位(2023年)となっている。
このような動向の中で、日本もSDGsの達成に向けた取り組みを行っているが、国連が発表しているSDGsの達成度の世界順位から見ると、残念ながら年々順位が落ちており、2023年では世界の中で21位であった。特に「深刻な課題がある」と指摘されている目標には、目標5(ジェンダー平等を実現しよう)や目標12(つくる責任、つかう責任)を含め5つの目標がある。
フェアトレードは、フェアトレード認証制度を通じて持続可能な経済社会を実現するための経済取引・貿易の仕組みであり、8つの目標に貢献できるとされている。その認証制度は、経済・社会・環境に関する国際的基準を作り、それを満たす製品あるいは団体にフェアトレードのラベルを付与するものである。世界には2つの代表的な運営組織があり、国際フェアトレードラベル機構は基準を満たす製品を認証し、他方、世界フェアトレード機関(WFTO)は基準を満たす団体を認証している。経済的基準の中には、例えば、コーヒー豆などの途上国の産品の最低価格であるフェアトレード最低価格を保証することや、途上国の環境や教育に資するためのフェアトレード・プレミアムの支払いなどがある。したがって、フェアトレードの商品価格は通常の商品よりも高くなる傾向がある。
世界のフェアトレードの市場規模は徐々に伸びており、2004年に8.3億ユーロであったものが2018年には98億ユーロにまで拡大している。仮に98ユーロを1ユーロ160円で円に換算すると、1兆5680億円となる。国際フェアトレードラベル機構に所属しているフェアトレード・ジャパンによると、日本では主にチョコレート、織物、コーヒーなどの製品がその認証を受け、フェアトレード製品になっている。また、フェアトレードに参加している組織・企業数は117(2021年)となっている。また、日本での市場規模は、2013年に89億円であったものが2022年には196億円と徐々に増加はしているものの、現状ではドイツなどと比べると非常に市場規模は小さい。
これまでフェアトレードに関する学術的研究も行われており、実証的な研究が中心となっている。実証研究では、フェアトレードの認証と製品の価格の関係や特定の国におけるフェアトレードの実効性の検証などが行われてきた。また、近年では理論的研究も行われており、フェアトレードが途上国の労働者の労働意欲、賃金、経済厚生に及ぼす影響などが分析されている。
以上、フェアトレードを含めSDGsの達成にむけて様々な取り組みが行われているが、まだその目標には到達していない。大学は、教育・研究面でSDGsへの関心をより一層高め、その取り組みを可視化することで、優秀な学生を育成し、それを企業の取り組みにも反映させていくことでSDGsに貢献することができると考えられる。
*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。