第70回OFC講演会

演題

日本の経済財政を考える

開催日時/場所

2024年11月9日(土)午後2時30分~ /大阪大学中之島センター5階 いのち共感ひろば

講師

大阪大学名誉教授 本間 正明氏

honma

プロフィール

    <講師略歴等> 1944年生まれ、1967年大阪大学経済学部卒業
    大阪大学経済学部教授、大阪大学経済学部長、大阪大学副学長を歴任
    経済財政諮問会議民間議員など公職も多数務める

    2016年瑞宝重光章受章

講演要旨

 

 正式の講演録は本間先生が今書かれておられるところです。分量はかなりのものになりそうとのことです。頂戴しだいOFCのホームページに載せますが、今回は事務局で簡略にまとめたものを掲載しています。 (文責はすべて事務局室長 高戸にあります)

第70回OFC講演会では、本間正明大阪大学名誉教授に講演者として登壇していただき、財政学者の視点から日本経済の歴史的背景や政策課題について詳しく論じていただきました。

講演冒頭部分は、先生が大阪大学を受けられた理由や、入学後の卓球部での活躍などを語られたあと、当時財政学の第一人者であられた木下和夫先生のゼミに入られた経緯やそこで必死でマスグレイブの本と取り組んで経済学の面白さに目覚められたこと、これらの経験が、財政学における経済安定政策や社会的公平性と効率性への理解を深める契機となったことなどを話されました。 卒業後、住友銀行に入行したことやその後すぐに大学に戻り研究者としての修行を始められたこと、先生が若手研究者であったときにお会いした宇沢弘文先生の思い出などもお話いただきました。

財政学の枠組みには「制度論的財政学」「マルクス主義的財政学」「近代経済学的財政学」という3つの視点があります。それぞれが異なる価値観と方法論を基に政府の役割や財政政策の在り方を考察しています。日本の国家財政がGDPの約50%を占める現状に触れ、上からの公共性と下からの公共性の調整が民主主義において不可欠であることを強調されました。

1960~1970年代は、ニクソンショック、第一次石油ショック、公害問題、学生運動など社会的・経済的混乱が相次いだ時代でした。この期間、日本では「くたばれGNP」といったスローガンが象徴するように、所得分配への不満や社会的緊張が高まりました。また、経済政策を巡る議論が進展し、ケインズ経済学が主流から外れる一方で、合理的期待や自然失業率を基盤とした新しい経済理論が登場しました。これらの動きは、日本の経済政策に国際的な視点を取り入れる契機となりました。 1980年代には、成長重視の政策の下で消費税導入や法人税減税といった税制改革が実施されましたが、これが市場流動性を高め、資産バブルを引き起こす結果となりました。当時、日本企業の投資スタイルは景気に依存した性質を持ち、バブル崩壊後には投資の急減や「失われた30年」の基盤が形成されました。この経済停滞期において、日本型労働市場や年功序列型賃金体系のメリット・デメリットが議論されました。特に、横断的な流動性の欠如が若年層に不利な状況を生み、国際市場での競争力低下を招いたとされています。

2000年代初頭の小泉政権では、「自民党をぶっ壊す」というスローガンの下、構造改革が進められました。政策意思決定を派閥調整から内閣主導へと転換し、経済財政諮問会議を通じて学術的知見や実業界の意見を政策に反映させる仕組みが整備されました。これにより、政策決定プロセスの透明性と合理性が向上しました。(一方で財務省からはいろいろと言われたとのことです)

続く安倍政権では、アベノミクスによるデフレ脱却を目指した金融政策が展開され、岸田政権では賃上げを促進する政策が注目されました。 一方で、現代の日本経済はインバウンド投資(対内直接投資)の低迷や市場開放の遅れといった課題に直面しています。海外からの投資を引きつけるためには、資本の自由化や規制緩和が必要であり、これを「第2、第3の開国」として取り組むべきであると講演では指摘されました。また、バブル崩壊後の経済停滞の原因として、日本企業が本業以外の非効率な投資に依存し続けた構造的問題が挙げられています。

講演の最後では、先生は日本が持続可能な経済成長を実現するための改革の方向性を提示されました。具体的には、サプライサイド改革を通じた賃上げ促進、労働市場改革による流動性向上、外国資本を引き込むためのインバウンド投資促進、そしてグローバル競争力の強化が挙げられました。これらの改革により、日本経済が国際的な地位を確立し、グローバル化する社会に適応できるとされています。 また、先生はミクロとマクロの視点を統合する政策が求められると強調されました。日本が「普通の国」としての地位を確立するためには、国際社会との連携を深めつつ、内需と外需のバランスを取った持続可能な経済基盤を構築する必要があると述べ、講演を締めくくられました。

*この講演要旨の文責はすべて事務局室長 高戸にあります

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