ひとり勝ち社会
大竹文雄

映像・音声技術と通信技術の発展により、世界の一流の音楽やスポーツをどこにいても安い費用で楽しむことができるようになった。そのような技術が発展する前であれば、一人の一流音楽家の演奏を楽しむことができた聴衆は限られたものであり、それ以外の人々は二流、三流の音楽家の演奏を聞かざるを得なかった。技術革新によって、一流音楽家に対する需要は急増し、それ以外の音楽家に対する需要は急減することになったのである。一流と二流の差がほんのわずかであっても、演奏を楽しむ費用の差がなければ、大多数の人々は一流音楽家の演奏を聞くであろう。

このようにして、技術革新によって、スーパースターの所得は天文学的なものになる一方で、それ以外の芸術家やスポーツ選手の所得は、非常に低いものになった。ひとり勝ち社会の到来である。それでも成功した場合の所得が大きいため、多くの人々をそのような職種に惹きつけるのである。スーパースターの所得税率を高くすることで、そうしたスーパースターを目指す競争を弱め、より生産的な仕事に多くの人々を振り向けさせることができる。しかし、一人勝ち社会という過激な競争により多く人々が参加することで、非常に質の高い音楽・スポーツ・ソフトウェアを世界中の人々が楽しむことができるというメリットもある。


参照:ロバート・H・フランク、 フィリップ・J・クック著、香西泰監訳 『ウィナー・テイク・オール』日本経済新聞社、1998年