解雇制限法は失業率を引き下げるか
大竹 文雄
雇用不安を解消する政策として、解雇を制限する法律をつくることが提案されることがある。たしかに、解雇を制限することは、既存雇用者の仕事の安定をもたらすことになり、彼らの雇用不安を解消することになるかもしれない。その意味では、失業率を低下させる政策として有効なように思える。
しかし、解雇制限を厳しくすることの影響はそれにとどまらない。厳しくなった解雇制限法のもとで、企業は採用行動を変化させることになる。将来の企業業績に不確実性がある場合、企業の採用担当者は、余剰人員が出ることを恐れるので、解雇が困難な正社員の採用に慎重になる。すなわち、解雇制限の強化により、解雇されて失業する労働者が少なくなる一方で、採用数も減少し、一度失業するとなかなか再就職できない状況が生まれる。つまり、解雇制限の強化は失業期間の長期化をもたらし、失業率の上昇要因になる。
解雇制限の強化によって便益を受けるのは、既に正社員として雇用されている労働者であり、被害を受けるのは、まだ就職していない新規学卒者や子育て後の再就職先を探している主婦、運悪く解雇された失業者である。長期間失業すると、技能も低下し、仕事に対するやる気も低下することが多い。解雇制限強化にはこのような深刻な副作用がある。それでも、解雇制限を強化する政策が採用されやすいのは、失業者より雇用者の方が多いからであろう。