失業率の日米逆転
大竹 文雄
1950年代以降、1980年代を通じて日本の失業率は1〜3%、アメリカは平均約6%で、圧倒的に日本の失業率が低かった。しかし、バブル経済が崩壊した1990年代にはいって、日本の失業率は上昇傾向にあった。一方、アメリカは、1992年以降の好況を背景にして失業率の低下が続いた。そして、1998年になると日本の失業率は急激に上昇し、その年の12月についに、日本とアメリカの失業率が逆転するという事態が発生した。
かつて、日本の低い失業率の原因が、他国と統計上の失業概念の差にあるのではないか、という意見が出されたこともあった。しかし、日本の失業率の定義は、ほぼアメリカの失業率の定義に等しい。無職のもののうち仕事を探していて、仕事があればすぐにそれに就くことができるものを失業者という。しばしば公共職業安定所への求職者が失業者であると誤解されるが、失業率は個人に対するアンケート調査から算出されるものである。日米両国で、失業者の定義に細かい概念の差があるのも事実である。しかし、実は専門家の間では、そのような差を訂正しても、1980年代までは日米の失業率が逆転しないことは知られていた。失業率の日米逆転という事態は、日米の失業率の差が統計上の概念の差から生じていたのではなく、景気の実態の差を反映していたことを、はからずも明らかにしたのである。