失業の社会的コスト
大竹 文雄

失業率が高まることは、失業している人たちが生産活動に従事していないため、労働力が有効に活用されていないという経済的なコストがかかっていることを意味する。その上に、失業には、社会的なコストが存在する。犯罪発生率や自殺率の上昇がそうである。図には、日本の失業率と犯罪発生率、自殺率の推移を示した。三つの変数の間に密接な関係があることが理解できる。特に、1998年以降の失業率の急上昇と時を一致して、犯罪率、自殺率が上昇している。

経済学では、人々は罪を犯した時のコストとベネフィットを比較して、ベネフィットの方が大きい場合に罪を犯すと考える。犯罪のコストの中には、検挙されて罰則を受けることの直接的なコストだけでなく、職を失うといったことの間接的なコストも含まれる。職を持っている人にとって、罪を犯す事は職を失う危険性があるため、そもそも罪を犯す動機が少ない。また、再就職が困難な時期に罪を犯すことの機会費用も低くなる。職をもっていない人については、犯罪が発覚し罰せられた時の損失も相対的に小さくなる。

失業による生活苦から自殺という手段をとる人も増える。自殺についても犯罪と同様の分析をする経済学者もいる。いずれにしても、失業が社会的な不安感を増し、大きな社会的コストをもたらしていることは明らかである。