不況が増やす少年犯罪
大竹文雄
最近、凶悪な少年犯罪が増加していることから、その原因について、家庭環境、教育、心理・精神医学的問題、法律抑止力の問題、社会環境の問題など様々な観点からの議論が展開されている。
実は、未就労の者が多数を占める少年に関する犯罪についても、労働市場の逼迫度と密接な関係がある。図に年齢階層別の人口あたり少年犯罪の検挙率と、中学、高校の新規学卒求人倍率をプロットしている。両者の間には明確な負の相関があることがみてとれる。
実際、全国の時系列データと都道府県のパネルデータを用いて実証研究を行った大竹・岡村(2000)では、少年犯罪の発生率と新規学卒求人倍率、教員一人あたり学生数の3つの変数の間には長期的に安定的な関係があることが示されている。高校や中学の新規学卒求人倍率と少年犯罪の検挙率の間には負の相関関係があり、学生一人あたり教員数や人口あたり警察官数と少年犯罪の検挙率の間にも負の相関がある。犯罪別にみると、このような特徴が典型的に現れる犯罪は窃盗である。窃盗は少年犯罪の中で大多数を占めている。一方、恐喝、強制猥褻については、不平等度が高くなること、一人あたりGDPが低下することが少年犯罪の発生率と関連をもっている。これらの犯罪については、所得格差の拡大や貧しさが統計的には関連があるのである。
少年犯罪の発生率が、労働市場の逼迫度と関連をもつのは、いくつかの理由が考えられる。第1に、仮に罪を犯さないとしても将来合法的な職に就くことが困難であると判断し、少年たちが罪を犯すことを選択するという可能性がある。第2に、学校を卒業した少年が失業して、犯罪を行うようになると、その後輩の現役学生に悪影響を与えて犯罪グループを形成する結果、少年犯罪が増加する。第3に、不況で親の所得が低下し、少年のこずかいが低下することが原因で、こずかい稼ぎを目的とした犯罪を行う可能性がある。
教員数が少年犯罪を減らす方向に影響を与えるのは、教育の質があがること、生徒に対する監視力が上昇すること、の2つの可能性がある。
リストラされる中高年労働者が不況の被害者として注目を浴びることが多い。しかし、就職できない若者や、就職に希望をもてない少年に対しても若年犯罪に象徴されるように深刻な影響を与えているのである。また、同時に教員数や警察官の数を増やすことが、少年犯罪の低下をもたらす可能性にも注目する必要がある。
<参考文献>
大竹文雄・岡村和明(2000)「少年犯罪と労働市場:時系列および都道府県別パネル分析」(pdfファイル)『日本経済研究』、Vol.40、pp.40-65