2001年1月31日共同通信配信記事
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所得の格差、拡大か
「総中流社会」や「平等社会」といわれた日本で、所得格差が拡大しているとの見方が広がっている。ネットバブルははじけたが、情報技術(IT)関連などの事業に成功し株式公開にこぎ着けたり、外資系金融機関のディーラーなどとして高収入を稼ぐ新しい富裕層が生まれている。一方、失業率は4%台後半に高止まりし、生活保護を受ける人は百万人を突破。能力給制度の普及で企業内格差も拡大している。所得の格差を示す指標は1980年代から上昇傾向にある。ただ「社会の高齢化が主な原因」との指摘もあり見方はさまざまだ。
売れる高額商品
都心の一等地、汐留に建設中の高層マンション「東京ツインパークス」。45階以上の計33戸はスカイハウスと呼ばれ、最低でも2億円弱の高額物件だ。昨秋の販売時に全体で7.1倍の人気を集め「事実上、即日完売」(三菱地所)という。
東京・西新宿のホテル、パークハイアット東京。最低でも一泊4万9千円だが、人気は高く、「昨年は年間稼働率が初めて90%を超えた」(同ホテル)。トヨタ自動車の高級車「セルシオ」も好調で、昨年8月末の販売開始から1ヶ月で年間目標を上回る約2万5千台を受注した。
高額商品に人気が集まる半面、消費全体は低迷。企業はリストラの手を緩めず、雇用不安がぬぐい去れない。生活保護を受ける人は95年度の約88万人からじりじり増え、99年度は百万人を超えた。
所得などの不平等度を示す指標にジニ係数がある。完全平等でゼロを示し、1に近づくほど不平等度が高まる。経済企画庁国民生活局(現内閣府)が国民生活基礎調査から算出した所得のジニ係数は、85年の約0.36から97年には約0.40に増加。どんな調査を基に算出するかでデータに差はあるが、おおむね80年代半ばごろから上昇傾向が続いている。
年功から実績へ
「日本の平等神話は崩壊した。80年代ごろから格差が拡大し、米国ほどではないが英国、フランスなど欧州の大国並に所得分配の不平等な国になった」と橘木俊詔京都大教授は話す。
橘木は原因として「給与体系が年功型から実績型に変化。また社会の高齢化やビジネスで少数の勝者に利益が集中する『一人勝ちの経済』の浸透などがある」と分析する。
これに対し大阪大の大竹文雄助教授は「確かに所得格差は広がったが、社会の高齢化原因が大きく『見せかけの不平等』ではないか」との見方だ。
大竹氏は30歳代後半などといった同一年齢層の中での賃金格差の推移を見ると、過去20年間ほとんど広がっていない点に注目。日本は同期など同世代の所得格差は小さく、年を取るとともに広がることを考えると「所得格差が大きい高齢者に人口の比重が移ったり、高所得カップルが増えたのが係数上昇の主な原因」と分析する。
内閣府の太田清国民生活局総務課長も「生涯で考えると、これまでのところ格差が拡大しているわけではない」と話す。
IT化米を追う
先進国で所得格差が大きいのが米国。日本政策投資銀行の稲葉陽二国際部長は「格差拡大は80年代から顕著になり、その傾向はまだ続いている」と話す。
原因としてIT化などの技術革新で組織のフラット化が進み、社会全体で中間層が減ったり、ソフトウェアで代替可能となった一部専門職の地位低下、国際競争の激化などを指摘。理由の多くは日本にも当てはまるとして稲葉部長は「格差縮小要因もあるが、日本は競争社会に向かっており所得格差は今後広がるが、必ずしも悪いとは言えない」と話している。