公開講義|講義要旨

講義名

公開講義「環境とエネルギーの経済学」 平成17年度2学期

講義要旨

「開講の辞」
大阪大学経済学研究科 研究科長 永谷 裕昭 氏

田畑 吉雄 氏

 


 第1回 10月4日

「地球温暖化とエネルギー問題」
大阪大学経済学研究科 教授 伴 金美 氏

伴 金美 氏

地球温暖化の現状と温暖化防止に向けた国際的な取り組み、特に気候変動枠組条約の締結の経緯と京都議定書の発効に至るまでの歴史を振り返った。その中で、先進工業国と発展途上国の利害対立の深刻さが国際的な合意形成を困難にしていることも指摘された。また、温暖化ガス排出削減を実施するための経済学の役割についても解説され、炭素税・補助金、排出権取引制度など政策手段の提言や制度設計、それらの経済に対する影響評価に貢献してきたことが述べられた。最後に、3年後に大幅な削減を迫られている日本の政策的取り組みの著しい遅れへの危惧が指摘された。


 第2回 10月11日

「経済成長とエネルギー需要」
大阪大学経済学研究科 教授 伴 金美 氏

伴 金美 氏

エネルギー資源の中心的位置を占める原油の価格推移を振り返り、石油価格が採掘可能な埋蔵量を左右すること、価格上昇が代替エネルギーの登場を促す、従って代替エネルギーが採算が取れない程度で推移するだろう。エネルギー需要は経済水準がアップにより増加、さらに経済水準が高まればエネルギー効率も向上するとデーターで提示。CO2排出要因は経済成長とエネルギー効率、エネルギー構成によるが、各国のエネルギー構成の推移比較や分解要因の推移から取られたエネルギー政策の違いを解説された。政策のあり方のコメントでは、市場は近視眼的で温暖化問題を考慮する能力はないので、長期的な視野を持つ政策介入が必要となる。日本では人口減によるエネルギー需要の減少も考慮すべきと結ぶ。


 第3回 10月18日

「エネルギー価格高騰と日本経済」
(株)日本総合研究所 関西経済研究センター所長 吉本 澄司 氏

吉本 澄司 氏

第1次石油危機以降のわが国の原油価格の推移を振り返り、原油価格上昇がどのように日本経済に影響を及ぼすかをさまざまな角度から眺め、分析していく。特に、過去3回の高騰期のパターンを比較し、今回のいわゆる「静かな石油危機」の高騰の様子がこれまでの異なっている点を指摘された。これからの日本の景気動向について、政府は「踊り場からの脱却」との見方を示すながらも、原油価格の影響に留意とコメントをつけたが、その懸念材料として海外経済の動向、金融情勢などにつき自身の見解を披露された。また、原油高が続けばエネルギー需要の動向として、エネルギー消費の抑制や、省エネ投資増加が見込まれるとも指摘された。


 第4回 10月25日

「環境経営とグリーン・ロジスティクス」
大阪大学経済学研究科 講師 西垣 葵 氏

西垣 葵 氏

社会経済システム全体で「持続可能社会」への胎動が始まる中、企業経営でも「環境経営」の名の下に、事業活動と環境を相補的に両立させる事が求められている。グリーン・ロジスティックスとは、突き詰めれば企画・開発から廃棄・リサイクルまでの全事業プロセスで環境に配慮することである。経営面では企業の社会的責任(CSR)や社会的責任投資(SRI)が問われ、その結果が企業の格付けやエコ・ファンドにまで及ぶ時代になっている。環境マネジメント、環境会計、環境情報公開等が重視され、事業遂行上では、環境配慮の製品、グリーン調達、環境負荷の最小化、資源効率の最大化(3Rなど)等々が求められている。サプライチェーン・マネジメント(SCM)はグリーン化、リバース化の要素を加え、デマンドチェンとして環流する仕組みへと変貌しつつある。この他、地球温暖化に関連してCO2と運輸問題、製品やシステムの評価・管理・運用のため、ライフサイクル・アセスメント(LCA)やプロジェクト・マネジメント等最新の経営技法にも話が及んだ。

 

 第5回 11月1日

「国としての地球温暖化政策」
環境省 地球環境局総務課 課長補佐 芳野 行気 氏

芳野 行気 氏

長期的に見た温暖化傾向を地球規模、日本について振り返り、二酸化炭素の排出量がいかに深刻であるかをデータで示し、特に日本の場合の排出元について個別に分析された。近年、民生家庭部門での増加傾向にあり、これから無視できない状況にある。大都市と地方都市での交通手段の違いがCO2排出量の違いとなって現れている点を掘り下げ、都市交通、大型店舗のあり方など再検討すべき点があるのではと、これからのまちづくりを進める上での問題を指摘された。


 第6回 11月8日

「エネルギー安全保障と経済」
(独)産業技術総合研究所 企画本部 総括企画主幹 堀尾 容康 氏

堀尾 容康 氏

原油価格が石油依存度の低下にも関らず上昇している背景を分析。経済発展に伴うエネルギー需要の増大から長期的需給ギャップが懸念され、石油が再び戦略物資と看做されるようになった。また中国が輸入国となり中東への石油依存がさらに高まると予想する。日本のエネルギー需要は人口減少や産業構造の転換で頭打ちとなるだろうが、その中心は引続き石油に依存することになる。日本のエネルギー自給率は低く、原油は中東への依存度が再び高まっており、安全保障が重要視されねばならないし、環境への適合も重要な課題であると認識する。エネルギー政策は省エネの推進、エネルギー源の多様化、エネルギー安定供給の確保を柱に組み立てる。その戦略は、①国際エネルギー戦略の確立②省エネ・環境対応努力の好循環実現③エネルギー供給の対応力強化④柔軟・強靭なエネルギー供給システムの実現と述べる。


 第7回 11月22日

「自然環境とエネルギー」
(株)三菱総合研究所 科学技術研究本部 主任研究員 関根 秀真 氏

関根 秀真 氏

エネルギーと自然環境のかかわりと変化を人工衛星からの映像で解説し、世界の土地利用の変化、森林面積の減少を示した。エコロジカル・フットプリントの概念を解説して、「自然環境を踏みつけている面積」からそのエリアにおける適正規模(環境収容力)をどれくらい超えた経済活動が行われているかの実態を説明、再生可能エネルギーの必要性を強調された。温暖化問題を考えるとき、時間的観点、空間的観点、加害者・被害者の視点でとらえ、科学・技術、政策、経済の三位一体の問題解決が不可欠と結ばれた。


 第8回 11月29日

「エネルギーシステムの環境性評価」
(株)三菱総合研究所 エネルギー研究本部 主任研究員 園山 実 氏

園山 実 氏

エネルギー問題と環境問題の関係を再確認し、環境性評価の体系を環境アセスメント、パフォーマンス評価、LCAなどにつきわかりやすく解説された。特にLCAについて深く掘り下げ、エネルギーシステムの環境性評価には、このLCAが一般的であり、CO2の排出量、エネルギー収支、エネルギーペイバックタイム等が求められると説明。さらにはLCAは環境側面のみを評価するツールであり、その欠点を補うため、経済性などの評価を加えた総合評価(ライフサイクルマネジメント等)が注目されていると環境税や排出権取引にまで触れて締めくくられた。


 第9回 12月6日

「環境・省エネルギーへの戦略」
松下電器産業(株) 環境本部 環境渉外・企画担当部長 菅野 伸和 氏

菅野 伸和 氏

松下電産グループの環境経営の概要を、地球温暖化防止、化学物質規制、循環型社会形成、環境コミュニケーションの観点から具体的事例を挙げて解説された。CO2排出量の削減は製品のLCAから見て、消費者の使用時の削減に重点を置く、有害化学物質の排除などグリーンプロダクツ開発を目指している点や、持続可能な「新たなくらし価値創造」を高めるため、その指標´ファクターX`の大きな目標を設定した取り組みを紹介された。また、環境コミュニケーションを重視し、幅広いステークホルダーへの情報開示と意見の吸い上げに力を入れている点も強調された。


 第10回 12月13日

「環境問題の現状と企業の取り組み-大阪ガスを事例として-」
大阪ガス(株) 環境部長 桜井 律郎 氏

桜井 律郎 氏

これまでの講義の地球環境問題を温暖化問題、廃棄物問題、化学物質問題に区分けしておさらいした上で、企業の取り組むべきことを解説された。環境問題が重要性を増し、企業を環境行動で評価する動きが高まっており、企業としては、CSRを果す上で、従来の環境管理から環境経営へと経営の重要課題と考えなければならない。そのなかでアカウンタビリティ、社外とのコミュニケーションが大切であると環境報告書などを例に解説を加えられ、最後に大阪ガスの環境経営について具体的事例を挙げて説明された。


 第11回 1月10日

「京都議定書とそれ以後の現状」
弁護士/NPO法人気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵 氏

浅岡 美恵 氏

温暖化の影響はこれまでの予測を上回る傾向にあり、気候変動によるリスクは、気温上昇とともに増加すると言う。「京都議定書」発効に至る経緯を振り返り、先のモントリオールCOP/MOP1に参加されたその報告は臨場感にあふれ、各国の事情が浮き彫りにされた。今回の会議で「京都議定書」は「京都2」へと続くことが確認されたが、日本のとるべき道は、CO2削減に向け、情報公開で現状をきっちり把握できるようにしたうえで、早く枠組みを決めることが肝要と説かれ、NPOとして今後も積極的に働きかけを続ける決意がうかがわれた。


 第12回 1月17日

「エネルギー市場自由化と環境価値実現への道」
関西電力(株) 秘書室・企画室(兼)/関西学院大学経済学部講師 西村 陽 氏

西村 陽 氏

電力ビジネスの歩みを通して電力産業組織を解説し、問題点を浮き彫りにして欧米との違いを明確にさせたうえで、エネルギー自由化が価格低下と需要増加をもたらしたと指摘。一方で、電力発電におけるCO2排出削減を考えると原子力、新エネルギーをいかにうまく使っていくかがキーとなるが、原子力、火力、風力のそれぞれの問題点を検証していかれた。電力における環境税(炭素税)試算、排出権取引にもふれ、環境価値が市場メカニズムうまく機能するかと問いかけ、その条件についても言及された


 第13回 1月24日

 パネル討論
 司  会 : 大阪大学経済学研究科 教授 淺田 孝幸 氏
 パネラー:(株)三菱総合研究所 政策・経済研究センター 主席研究員 酒井 博司 氏
      関西電力(株)秘書室 マネジャー 西村 陽 氏
      大阪大学経済学研究科 教授 伴 金美 氏

パネル討論

最終回は、これまでに講義した先生など3名のパネラーでの討論で公開講義を総括し、締めくくった。 まず、司会者から一連の講義を振り返った報告の後、各パネラーから①エネルギー・環境問題に対する経済学の役割 ②政策提言 ③企業・市民の取り組みについて発言があり、それをもとに討論された。意見交換に加え聴講者からの質問に対する各パネラーの回答など活発な発言があった。化石燃料の利用をどうおさえるか、外部性を内部化する制度設計、世代間負担の問題、情報の共有化と生活パターンの変革など多くの課題が浮き彫りにされた。

講義風景

  • パネル

*記載している肩書きは、講義当時のものです。
*上記の講義要旨はOFC運営委員会・事務局の責任で編集したものです。

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