公開講義|講義要旨

講義名

公開講義「財政・金融と関西経済の現状」 平成25年度1学期

講義要旨

第1回 4月12日

「オリエンテーション・講義(郵政改革)」
財務省 近畿財務局 総務課長 原村 健二 氏

原村 健二 氏

 まず、オリエンテーションとして、近畿財務局は、財務省の出先機関として、財政・国有財産管理を、また金融庁から業務委任を受け、金融等に関する施策を実施していることを解説。それらの業務と国民生活と関連付けた一連の講義のテーマを、その業務に携わっている職員が講師として現状と課題などを紹介すると案内。
 引続き、財務局の仕事と直接つながっていないが、「郵政改革」につき、これまで郵政改革に関わってきた経験を通して、郵政改革が目指しているもの、何が問題であるかを国の政策実行者の立場から解説した。


第2回 4月19日

「国債管理政策」
財務省 理財局 国債業務課 課長補佐 城田 郁子 氏

城田 郁子 氏

 「国債」は、国が必要な歳出に見合う財源(税収など)が見込めない場合、その額を借り入れるもの。社会保障支出など歳出の増加と景気低迷のための税収落ち込みで、国債の発行額は増加傾向にあり、24年度末には公債残高が709兆円になる見込みで、国民一人当たり556万円の借金を抱えている状況にある。したがって、国債価格下落、金利上昇は日本を左右する重大な問題であり、国債に対する信認を維持、安定的な国債発行をする必要がある。そのため、更なる財政再建に取り組み、継続的な市場との対話による財政状況、取組みへの理解を深めることなどが、国債管理政策に求められている。


第3回 4月26日

「国有財産行政」
財務省 近畿財務局 管財部長 北村 信男 氏

北村 信男 氏

 国の資産には、不動産、動産、用益物権、債権、知的財産権など多種多様な財産があるが、国有財産法上で規定される不動産、一般の動産、独立行政法人等への政府出資などを「国有財産」といい、3月末現在101兆円あるが、全体の3分の2近くが政府出資である。 また、国有財産を分類すると、行政財産(公用財産、公共用、皇室用、国有林野など)と普通財産(庁舎跡地、物納された土地、政府保有株式など)に分けられる。 財務省では、この国有財産の管理、処分に関する業務を行っている。業務方針では民間企業同様、国有財産の有効活用、売却促進、管理のPDCAを廻す、アウトソーシングを重点に置く。防災施設として活用したり、地域連携での資産売却したりなど新しい課題に取り組んでいる。


第4回 5月10日

「関西経済の現状」
財務省 近畿財務局 総務部長 佐藤 秀明 氏

佐藤 秀明 氏

 安倍政権発足以降の金融市場の動きを振り返り念頭に置きながら、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」で、長引く円高・デフレ不況から脱却し、雇用や所得の拡大を目指すとする、阿部政権の経済財政政策を概観する。 大胆な金融緩和により、株価が急騰、円安も進み、企業収益の改善と明るい兆しが見え出したようであるが、その効果に疑問を呈したり、副作用が現れたりを心配する声も聞こえる。やはり、第3の矢の政策実行がカギを握る。そんな中での近畿圏の特徴と現状を見ていくが、域内総生産のシェア低下、中小企業のウェイトが高い、アジア貿易輸出比率が高いなどの特徴であり、経済情勢も緩やかな上昇が期待できる。今後はさらに特徴を生かした政策が期待される。


第5回 5月17日

「災害査定制度・予算執行調査」
財務省 近畿財務局 理財部次長 澤田 耕作 氏

佐藤 秀明 氏

 財務局における国の予算に関する仕事に、災害復旧制度や予算執行調査がある。近年各地で、地震・津波や台風、集中豪雨による災害が発生しており、その災害復旧が急がれる。その際、原形復旧、早期復旧とともに、その費用負担が大きな問題であるが、その復旧事業を行う制度と財務局の役割について、災害査定立会、査定立会(概況説明・災害現場・実地査定・机上査定)、朱入れ、予算措置と手順にしたがい解説する。
 もう一方の業務の予算執行調査は、財務大臣の財政総括権能にしたがい、調査結果の予算作成への反映や適正かつ効率的な予算執行を確保する目的で、会計検査院の検査とは違った観点から行うものであり、予算の更なる効率化に向けたPDCAサイクルを廻すことにある。その調査の視点は、必要性、有効性、効率性と予算・執行のかい離などに置かれている。


第6回 5月24日

「税制の歴史と我が国の現行制度」
財務省 主税局調査課 課長補佐 藤嶋 正信 氏

藤嶋 正信 氏

 国家が国民に各種の公共サービスを提供するには、膨大な資金を必要とするが、その資金調達が租税であり、法律等で徴税を決めている。また、租税には所得再分配や景気調整機能などもある。税制の基本理念は、公平、中立、簡素にある。明治の新政府は、地租改正を行ったが、明治中期には土地所有者からの税から所得税へと重点を移し、法人税の導入、さらには相続税も取り入れた。その間に酒税、たばこ税なども導入してきた。
 戦後、シャープ勧告を受け、間接税から直接税中心の税制が構築されたが、順次、各種の間接税が導入され、抜本改正で、消費税の導入に至った。少子高齢化、長引く不況による税収不足による借金の増加で、三位一体改革が唱えられ、さらには、社会保障と税の一体改革の必要性が叫ばれている。
 現行の税制について、国民の負担率の国際比較、所得税、法人税、相続税など主な税を概観、財政改革のタイムリミットについて触れる。


第7回 5月31日

「社会保障と税の一体改革」
財務省 近畿財務局 局長 池田 篤彦 氏

池田 篤彦 氏

 現行の社会保障制度の基本的枠組みが構築された1960年代と現在では、社会経済情勢は大きく変化している。そのなかで、社会保障の充実・安定化と財政健全化の2大目標を同時に実現するための改革が、「社会保障と税の一体改革」である。今回の消費税率5%引き上げはこの目標の同時達成に欠かせないものである。日本の年金・医療・介護の水準は先進国並み、特に医療は世界一の評価であるが、急速な少子高齢化により、「やがて一人の若者が一人の高齢者を支える」厳しい社会が訪れることになる。そこで、財源確保、世代間の公平性の観点からも、消費税引き上げが不可避となる。財政健全化のためには、消費税だけでなく、税制全体を通じた改革が必要であり、政治改革・行政改革、経済への配慮など総合的な取り組み、また、国民の納得が得られる取り組みが必要である。


第8回 6月7日

「金融監督①(監督制度)」
財務省 近畿財務局 理財部 金融監督官 樽川 流 氏

樽川 流 氏

 銀行、信用金庫などは、その公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者保護の確保、金融の円滑を図るため、業務の健全かつ適切な運営を期し、国民経済の健全な発展を資することと銀行法などで謳っている。この役割を担っているのが、金融庁であり、財務局は金融庁から委託され、地域銀行、協同組織金融機関の検査・監督業務を実施している。近畿財務局管内では、対象金融機関は63ある。
 金融機関は、一部の公的金融機関を除けば私企業ではあるが、公共的役割を担っているため、規制・監督を受ける。その金融機関が経済社会において果たしている機能は、資金仲介、信用創造、資金決済である。
 金融機関の形態の違いによる監督や関連する制度の違いを解説し、さらに、金融セクターを巡る変遷を振り返り、金利自由化、IT技術の発展、国際化などで、金融監督の枠組み、手法は、その変化に対応して改革する必要がある。


第9回 6月14日

「金融監督②(金融監督の変遷)」
財務省 近畿財務局 理財部 金融監督官 樽川 流 氏

樽川 流 氏

 規制の基本的ルールは法律で定められているが、当局の実務上の具体的な留意点を整理し、公表(監督指針・金融検査マニュアル)している。その内容は、事前措置(金融機関の行動をあらかじめ規制・参入時の規制、行為規制、自己資本比率規制)と事後措置(金融機関の行動を事後にチェックし、必要な措置を講じる)、に大別される。事後措置では、銀行法によって、報告徴求、業務改善命令、業務停止命令を発令したり、早期是正措置を講じたりすることがある。
 是正措置などを講じるためには、金融機関の活動をモニタリング(観察・監視)することになる。このやりかたは、オフサイト・モニタリング(金融機関からの報告・ヒヤリング)とオンサイト・モニタリング(立ち入り検査)があり、担当部署が異なる。立ち入り検査は予告が原則で、管理体制などのチェックが主力であり、指摘事項については、納得感が得られるよう努力している。


第10回 6月21日

「金融監督③(地域金融)」
財務省 近畿財務局 理財部 金融監督第1課長 山本 祐実 氏

山本 祐実 氏

 地域金融を支えている近畿財務局管内の地域銀行は合併などで、現在10行、ほかに信用金庫など多数あるが、ある銀行のCMが代表するように、長いおつきあいを重視し、事業先が正常でなくなってきたとき、支援するなど地域に密着した取引を重視している。
 その支援事例を具体的に、コンサル機能(製造業の転業・工場の売却・事業継承支援・宅建業者と連携した住宅ローンの推進など)、ビジネスマッチング(売れないものを組み合わせた新商品の提案で収益拡大・生産力の落ちたブランドメーカーにOEM紹介など)、地域貢献、新たな営業、ABLなどと層別して紹介する。
 また、最近の動向として、政府が力を入れている新規貸し出しによる経済の活性化に一役買ったり、海外の銀行との提携して海外進出を考えている中小企業を支援したりするなどのことも行っている。 地域金融機関は、お金の預貸だけでなく、さまざまな面で、地域の支え手として貢献している。


第11回 6月28日

「金融監督④(金融取引業者)」
財務省 近畿財務局 理財部 証券監督課長 木村 孝 氏

木村 孝 氏

 これまで、銀行、保険、証券など個別・縦割りで規制してきたが、新しい概念の導入などにより詐欺的業者による被害が頻発するなど、利用者保護のためには横断的な法律が必要とされ、金融商品取引法が制定された。新しい法律では、横断化とともに取扱商品、業務内容により、登録制、届出制と取引業の参入などで柔軟に対応するようになった。近畿財務局管内の金融商品取引業者数は、215(24年3月末)と全体の1割程度である。
 証券監督行政における運営の基本は、監督の意義が国民経済の健全な発展と投資者の保護にあり、金融取引業者に適正な業務運営を促すことを目的としている。したがって、財務の健全性を維持するため、自己資本規制比率を120%とし、顧客資産を分別保管する義務を課している。さらに、経営の適格性・業務の適切性をチェックするなどで、法令違反行為には行政処分を課すなどの処置を講じている。


第12回 7月5日

「公正な証券市場の確立」
財務省 近畿財務局 統括証券取引特別調査官 山口 直哉 氏

山口 直哉 氏

 公正な証券市場確立のため、金融庁のなかに証券取引等監視委員会が設けられ、市場の公正性・透明性を確保し、投資者の保護に努めているが、その基本的な考え方は、機動性・戦略性の高い市場監視の実現や市場規律の強化に向けた働きかけ、市場のグローバル化への対応を図ることにある。委員会は3名で構成されているが、事務局では市場分析審査、証券検査、取引調査・開示検査など多岐にわたる検査、審査が行われている。不正取引が見つかったり、重大な法令違反が認められたりした場合、強制捜査や告発をするわけだが、偽計、株価操作、インサイダー取引などさまざまな ケース事例の紹介で、生々しさが伝えられた。


第13回 7月12日

「金融取引の基礎知識」
財務省 近畿財務局 理財部 金融調査官付上席調査官 藤井 眞樹子 氏

藤井 眞樹子 氏

 地域金融を支えている地銀、信金などの近畿管内金融概況を簡単に説明(預金残高、貸出残高とも前年同期に比べ増加)のあと、よく知らないと後々トラブルになりかねない仕組み預金(満期日繰上げ特約付定期預金(マルチコーラブル預金)の解説に始まり、各種金融トラブル、被害の実態を披露する。全国的には被害が減少傾向にあるが、大阪府下では24年度にくらべ、件数で3倍、被害額で2.3倍と急増している。あれこれと手口が巧妙化している「振り込め詐欺」、「架空請求詐欺」、「融資保証金詐欺」などについてコメントする。また、偽造や盗難などによるキャッシュカードのトラブルは、年配者だけでなく、広範囲に被害が及んでおり、暗証番号の取り扱いにも注意が必要である。「未公開株は必ず儲かる」と複数の人物から話が持ち込まれる「劇場型」、被害を取り戻せると、だまされた人を救う振りした「被害回復型」詐欺などさまざまな手口が被害を増やしており、折に触れた注意喚起が欠かせない。


第14回 7月19日

「講義まとめ・補足説明」
財務省 近畿財務局 総務課長 原村 健二 氏

原村 健二 氏

 まず、この一連の講義のまとめとして、財務局が行っている業務の大きなウエイトを占める地域金融機関の監督に関連し、金融制度、金融機関全体の状況とその中での地域金融機関について、おさらいをする。
 金融機関の監督権限は金融庁にあるが、金融庁は、地域銀行、協同組織金融機関の検査・監督の一部を財務局に委任している。なお、協同組織金融機関には、信用金庫、信用組合、労働金庫、農林系金融機関があてはまる。
 関西の地銀、信金・信組はいずれも合併により数は減少しており、さらに今年度中に2件の合併が予定されている。 これらの金融機関は、地域密着型金融として、生き残り、地域の発展に貢献する大切な役割を持っており、いくつかの事例が紹介された。
 最後に、時限法である中小企業金融円滑化法は、延長され今年度末で期限が来るが、その効果についても言及し、結びとした。

*記載している肩書きは、講義当時のものです。

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