第11回OFC講演会

演題

「三位一体の改革と地方財政」

開催日時/場所

平成15年6月9日(月)午後6時半~ / 梅田センタービル

講師

大阪大学大学院経済学研究科 教授 齊藤 愼 氏

齊藤 愼 氏

プロフィール

  • 大阪大学経済学部卒、経済学博士(大阪大学)
  • 和歌山大学経済学部助手、講師、助教授、大阪大学教養部助教授、教授を経て、1994年より経済学部教授。1998年より大阪大学大学院経済学研究科教授。
  • これまで行った研究は税制と地方財政の実証分析が中心であり、全国レベルの地方財政モデルを作成した。現在は、高齢化にともないより重要な分野となる社会保障の問題と、行政の効率化(NPM)、および財政の国際比較のためアジア諸国の実態調査等に関心を持ち、研究所等の外部の機関との共同研究も数多く行う。
  • HP:http://www2.econ.osaka-u.ac.jp/~saito/

会場風景

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講演要旨

はじめに ~財源不足・少子高齢化時代の地方分権~

 はじめに、今回「三位一体の改革」が言われだしたそのバックグラウンドについて申し上げたいと思います。日本は、少なくとも、ここ10年弱、地方分権の方向を向いて歩んできたといえます。おそらくもっと昔から指摘されてきたのですが、なかなか進展しなかった。大きな契機となったのは、「地方分権推進委員会」ができ、どんな事業、業務を国がやり地方がやるかについて整理しだしてからです。つまり「機関委任事務の廃止」です。今まで国が地方をある種、出先機関のように使ってきた、それをやめようということです。地方分権推進委員会の後を受けて現在は「地方分権改革推進会議」ができ、地方分権推進委員会がやり残した国と地方の財源問題になんらかの解決を与えられないかについて、現在検討をしております。これが本日のテーマであります、「三位一体の改革」というものにつながっていくのです。

 国と地方の仕事の切り分けについてですが、ざっと国と地方をみますと、地方の割合がかなり高く2:3で、地方が国の5割り増しくらいの仕事をしていると言われます。

 つぎにお金の出入りについてですが、入ってくる方は、実は使う方とは全く逆で、国が3、地方が2と、税収ベースで見ますと国が地方の5割り増しくらいの収入があるというのが現状です。平成15年度当初の地方財政計画(歳入)は86.2兆円ですが、その中で、地方交付税18.1兆円、それに国庫支出金12.3兆円、結局30兆円を超える資金が国から地方へ移転されています。現在、三位一体の改革で一番問題とされているのは、国庫支出金です。12.3兆円は国の各役所が地方にお金を出すわけですが、いわゆる「ひもをつける」、こういう風に使えばあげる、こういう風に使ってくださいよと口を出す、「ひもつき」という面でまずいのです。地方にひものつかない、国が口を出さない形で資金を獲得できるようにしようというのが三位一体改革のそもそもの発想です。地方の歳入86兆円くらいのうち、地方債含めて30兆円というべらぼうな金額が実は国から回ってきている。このこと自体が問題であるということです。

 しかし、このような構造は、今まで経済が順調な時代は問題なく、といいますか今ほど問題は顕在化していませんでした。税収が前の年に比べて1割ぐらい落ち込み、それが何年間か続くという現在の時代になり、地方団体は、少しくらいリストラしましてもなかなか税収の減少分をカバーできない状態だろうと思います。そして足らないお金を借金でまかなってきたわけで、現在、国と地方の債務は合わせて686兆円、国が圧倒的に多くそのうち地方は約200兆円です(平成15年度)。国は500兆というびっくりするような借金を抱えているわけです。対GDP比で見るとおよそ140%です。外国と比べてみましょう。借金している額をGDPで割った数字をみてみると、1990年には日本は70%を下回っていまして、当時は、上からイタリア、カナダ、アメリカ、そして日本、その下は英国、ドイツ、フランスという並びになっています。当時他の国と比べて日本は真ん中くらいだったのが、現時点では日本がこれらの国をはるかに凌いで突出した借金の残高をもっております。

 こういう状態で、今後少子高齢化が進みますと、地方団体の仕事は福祉関係を中心にしてもっと増えるというのはほぼ明らかです。地方団体は自前でいろんなことを意思決定して、やる時代になるという意味では、地方分権に向けた動きは方向性としても間違いないもので、そういう方向でやっていかないと、今後日本は高齢化にも対応できないだろうと思います。



Ⅰ.近年の「三位一体」改革の動向

 「三位一体の改革」というのは、国から地方へ回ってきている補助金と交付税を減らして、減らした見合いで地方団体が自由に使える税源に振り替えようというものです。その改革の構図についてですが、財務省と総務省は、どちらも補助金を削るということには利害が一致しています。しかし国のその他の役所から見ると、今までは補助金があったから地方をコントロールできたところが、補助金を切って地方税に振り替えるといわれたら納得できない。また補助金を切るというところでは意見が一致しても、国の持っている税源を地方にどれくらい移譲するかについては、そんなに意見が一致しているわけではありません。

 また2001年度の「国と地方の財源配分」をみてみますと、国民、企業が国と地方に納める税金が85兆5000億円あります。このうち50兆円は国税として徴収され、地方税は35兆5000億円という金額が徴収されています。国:地方が6:4です。ところが、国の歳出は57兆4000億円、地方の歳出は95兆9000億円で、大体ですがこれが4:6と逆転しているのです。その理由は先ほど言いました交付税、補助金が国から地方に渡されているからです。

1.「三位一体」改革の迷走
 最近の動きを追ってみましょう。5月8日に「三位一体の改革案」が出されました。ポイントは、三位一体改革の元々の主旨である「補助金を減らして地方税を増やす」ということと随分ちがうことになっていまして、地方へ税金を分けてあげることをある種検討課題にして棚上げしたということです。ちょっと極端な見方かもしれませんが、短期的にはゼロ回答ということです。これが5月8日に出されて、おおいに揉めました。5月15日の日経には分権改革推進会議の委員が言ったとされる言葉が掲載されました。まず棚上げ賛成派が、「この案が通らなければ日本の将来はない」と。つまり日本の財政改革の一環としてこれをやるんだということを主張しております。ところが、分権改革推進会議に地方分権に向けた税源確保を期待していた地方団体側からすると当然ながら、「これが通るなら日本の地方自治はなくなる」と真っ向から対立するということになっております。分権改革推進会議では11名の委員のうち5名がなんらかの形で反対するという異例の事態に発展しております。

2.「三位一体」の改革の難しさ
 各省庁の利害が相反するということで、なかなか改革は難しいということなのですが、一番問題と思いますことは、ある種コップの中の争いみたいになってしまったのでは、おそらく国民から支持は得にくいだろうということです。国の持っている税金を地方団体がとるというだけの話であれば、国民には、何のためにそういうことをやるのか、なかなか理解しにくいだろうと思います。私は今回の動きを見ておりまして、大義名分あるいは原理原則といったものがそれほど表に出てきていないように思います。例えば何兆円単位の税源移譲をするとき、その経済効果がどういう方向でどれくらいあるのか明らかにされなければ、国民は支持していいのかどうかすら分からない。最近、補助金カット分の7割ないしは8割を税源移譲するという案が出ていますが、しかし逆にいうとなぜ2割ないし3割を削るのかということに関して説明がないと分かりにくい。なぜ2割なら2割を減らすのかという原理原則があまりなさすぎる。これはちょっと問題ではないかなと私は思っております。やはり一つには日本はあまりにも大きな政府になりすぎていると思います。これを改革するんだというスタンスをはっきりするのであれば、例えば何割かを行政改革で効果を上げるということは十分可能だろうと思うのですが、その辺が「一体」になっていないということで、なかなか外から見ていてよく分からないのではないかと思います。



Ⅱ.税源移譲案と税源配分効果

1.「7兆円税源移譲案」
 私たちは7兆円税源移譲案と普通呼んでいるのですが、平成13年度の経済財政白書に7兆円の税源移譲案というのが掲載されました。歳出ベース4:6、国が4で地方が6ですから、これを税収ベースの6:4にまでもっていくのではなく、5:5をとりあえずの目標しようと。ある種分かりやすい考え方だと思いますが、ただやはり5:5にするにしても国税を7兆円地方に移さないといけません。7兆円とはかなりの金額です。もし7兆円の税源移譲をすると、地方税は地方の収入のうちの34%しかないわけですが、それが41%と膨らむのだと内閣府はシミュレーションしております。

 メリットはいろいろありますが、7兆円税源移譲をするとそれぞれの市町村、都道府県に地方税が増えます。増えた地方税の歳入に占めるシェアが40%から50%の市町村の数は、改革する前は約260だったのが、改革後は約340になるとの結果が得られています。地方団体の自由に使えるお金、財源の割合が増えるというわけです。もう一つの重要なポイントは、今は国から地方交付税をもらう交付団体が圧倒的に多いのですが、7兆円もの税源移譲を行うと、不交付団体が随分増えます。全市町村でみると不交付団体が12%から39%まで増え、政令市では全団体が不交付団体になります。不交付団体になるというのは、国からの介入をあまり受けない形で意思決定できるという面がありますから、これは大きなメリットだと思います。

2.「5.5兆円税源移譲案」
 これは総務省の片山大臣が2002年5月に経済財政諮問会議で示した案です。地方分権でやっていこうというときに、やはり「地方歳出に対する国の関与の廃止・縮減」がないと自分たちの望む方向ではやっていけないということ。それから「地方税中心」でやっていくということがワンセットにならないと分権的な意思決定ではできないということをおっしゃっています。ただ、これだけ国も地方も財政状況が悪く、また今後少子高齢化が急激に進展すると言われている中ですから、ここでは「国と歩を一にした地方歳出の削減・効率化」と書かれていますが、行政を効率化しつつ、分権を達成するという基本的な姿勢が見られるところです。

 それと、試案では、国税:地方税=1:1を実現しようとあります。「経済活性化等に伴う税収回復、地方財政収支の改善を踏まえて、地方交付税を地方税へ振替え」ということで、三位一体の改革は、元々は補助金と交付税を減らして税金を増やすという話だったのですが、この案ですと、地方交付税は背後に退き、とりあえず補助金を切りましょうという話で、元々の7兆円という話が5.5兆円にまで下がっています。

3.地域別税源配分効果
 どういう形で振り替え、地方税を増やすのか。地方の住民税に振り替える、あるいは地方消費税に振り替えるなどいろいろな案があるのですが、どの案でやってみても極端に言いますと、東京の一人勝ち、すなわち東京の税収だけが極端に増えるということで、いろんな地域の税収が同じように増えるというような税体系はなかなか見つからないというのが一番大きな問題だと思います。

 それでは大阪はどうなるのかというと、おそらく大阪は税源移譲に関しましてはプラスマイナス0くらいと思われます。その一つの理由は、やはり大阪の経済力がかなり落ちているということです。たとえば個人の所得に対して課税するとしても、個人の所得水準も落ちていて、やはり東京には及ばないというのが現状です。バブル崩壊後、一番大きなダメージを受けたのは東京だと思うのですが、その次に大きなダメージを受けたのは大阪です。バブル崩壊の1991年から99年の間で、大阪の税収は約20%減りました。

 地方分権を推進するための税源移譲が、やってみたら東京だけがプラスだということではおそらく実現は難しいのではないかということで、いまいろんな形で東京の増加分をどうやれば吸収できるか水面下で検討されているようです。地方税というのは、地方団体が必要だからあげるという地方交付税とは違いまして、なんらかの経済力のインデックスで地方税を取るわけですから、経済力の弱いところにはあまりいかない。すると、現状では、大阪の自治体の今後というのはかなり苦しいだろうと思っております。

 強い地域が経済力に応じた配分を受けるといえばそれまでなのですが、地域間でみるとおそらくばらつきがかなり大きくなるということです。



Ⅲ.真の地方分権実現に向けた税源配分のあり方

 私も、3月11日、分権改革推進会議に呼ばれまして、何か意見をいえと言われました。私としては、もう少し地方団体が自前で頑張る様式をなにか取り入れてほしいなと思っておりまして、「限界的財政責任」という言葉を使いますが、これを地方団体は発揮すべきでないかと主張してまいりました。つまり「歳出水準を調整するか、あるいは負担水準を調整するか」という考え方をしてほしいと。現在は地方債発行に依存しがちで、ある種ツケを後世に回しているわけですから。そうでなくて、今の世代で決着をつけられる部分は今の世代で決着をつけてほしいということを主張してまいりました。

 国が税源移譲をある程度するということが前提なのですが、やはりその前提のもとで地方が自前である種の財政責任を発揮しなければ分権してもおそらくなかなか上手くいかないのではないかと、新聞記事(日経2002年8月22日「経済教室」)にはイギリス、ドイツの事例を引いて原稿を書かせていただきました。やはりある種の負担をすることによってそういう地域でのみ何かをやれるというふうな形に変えていかないと、その結果として財政赤字が膨らむことは間違いのないところです。受益と負担の一致をめざし、「限界的財政責任」を地方が担っていく。こういう考え方が是非必要だというのが私の主張点です。



Ⅳ.むすびにかえて

 現在のような国と地方の財政状況では地方分権と行政改革というのは切り離して議論できないだろうと思っております。いまは、ある仕事に国も関与し、都道府県も関与し、市町村が実際にやるというパターンがあまりに多いのですから、このへんの切り分けをはっきりする必要があるだろうと思います。

 それから、今のこの動きで私の気にしておりますことは、何かを切るというときに、日本人は論理を戦わせて、それを徹底的に追求して「これは要る、これは要らん」という仕分けが下手なのだと私は思っておりまして、悪くすると一律カットみたいなことになると、これは結局あんまり意味がない。こういうチャンスであるから、ある補助金がどれくらい要るのかきちっと吟味した結論が出される必要があるだろうと思っております。一方、地方の側も補助金、交付税をカットされた分は、税源もらって当然だということだと思いますが、もらったお金をどれくらい有意義に使えるか、また有意義に使えるシステムをうまく組んでいけるかどうかということが、おそらく現在問われていることではなかろうかと考えております。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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