第34回OFC講演会

演題

「日本の製鉄業界のグローバル戦略」

開催日時/場所

平成22年2月17日(水)午後6時半~ / 大阪大学中之島センター7F セミナー室

講師

(株)神戸製鋼所 犬伏 泰夫 氏

犬伏 泰夫 氏

プロフィール

1967年 大阪大学経済学部卒業。株式会社神戸製鋼入社。
1996年 同社取締役就任
2001年 同社専務就任。
2002年 同社副社長就任。
2004年 同社社長就任。
2009年 同社社長職を辞任。
現在 同社相談役を務める。

講義風景

  • 会場風景
  • 会場風景

講演要旨

 自己紹介を兼ねた社内での経歴の話では、カナダ、アメリカでの駐在経験、帰国してからは米国とのJV設立プロジェクトや半導体事業、アルミ事業、ショベル事業の提携などに携わり、海外がらみの仕事が多かったと振り返る。また、神戸製鋼は高炉を持つ一貫製鉄メーカーでありながら、新日鐵やJFEスチールと違って鉄鋼事業は全体の半分で、アルミや機械などの事業も併せ持つ複合企業であり、本日の話は鉄鋼専業メーカーの考えとは少し違うかも知れないとの前置き。

~鉄と鋼~
 一般に鉄鋼製品を「鉄」と呼ばれているが、正確には「鋼(はがね)」である。製造プロセスが鉄鋼業の特質に関係し、グローバル戦略に係わるところが大きく、その点の理解が必要であると、鉄、鋼の製造工程や品質の違いなどを説明する。
 高炉では、鉄鉱石をコークスで還元し、石の部分を分離して鉄を造る。この鉄を鋼にする場合、銑鋼一貫メーカーでは転炉が使われる。また、電気炉メーカーと呼ばれる鉄鋼会社もあるが、ここではスクラップを主原料としている。
 鋼材は用途、製法により、品質、性質の違ったものとなる。日本の高炉メーカーの鋼材は、基本的にオーダーメイド。例えば自動車用でも、素材メーカー、加工メーカー、部品メーカー、自動車メーカーがひとつの目標を共有して力を結集し、品質あるいはコスト競争力の向上を成し遂げた製品を造る。産業連携により、日本の製造業の競争力が高められ、品質・性能が向上、鋼の多様性が増した。

~鉄鋼業の状況~
 日本の鉄鋼業は1953年に800万トンの粗鋼生産と過去最高を記録し、その後1973年には、11,932万トンまで順調に拡大し、世界ナンバーワンの生産量、コスト競争力を持つに至った。その後、オイルショック、円高などを経験しながら体質強化されてきた。
 一方、世界の粗鋼生産は、‘80~‘90年代を通じ、7~8億トンで推移していたが、‘04年に10億トンを突破、‘08年には13億トンになった。‘09年の速報では12.2億トン、そのうち中国が46%を占める状態である。
 ここに至るまでには、‘80年代から世界的に設備過剰に陥り、再編・統合が進んだ。鉄鋼先進国といわれる米国の企業も昔の形で存続しているのはUSSくらいであり、欧州でも国を越えての再編・統合が相次ぎ、‘02年には仏、スペイン、ルクセンブルグの企業が大合同し、当時として世界最大のアルセロールが誕生、しかし、‘06年には、ミッタルがそのアルセロールを買収し、アルセロール・ミッタルとなった。日本でも‘02年にJFEスチールが誕生、神戸製鋼も新日鐵、住金と提携することにした。

~日本の鉄鋼業のグローバル戦略~
 順調に拡大する世界経済とともに好調に推移するかに見えた日本の鉄鋼需要もサブプライム問題をきっかけに低迷、需要拡大が縮小に向かう状況にあり、生き残り、成長のためにはグローバル戦略が不可欠である。
 ‘80年代までは、鉄鋼業は製品の輸出が中心で、輸出安定のため、海外投資で加工会社を設立し始めた。その後日本企業が対米進出・現地生産するのに応じて、鋼材の現地生産の要望が高まり、鉄鋼メーカー各社が進出を果たしたが、大半のプロジェクトは失敗に終わっている。  
 先進諸国の景気停滞、新興国の台頭のなか、鋼材の需要は、地域・グレードに変化が起こっている。高級鋼の需要を追うだけでは、日本の製鉄業の安定・成長は難しくなる。新興国の耐久消費財需要のための低価格志向と先進国の高級鋼市場の競争激化の両面の考慮が必要である。競争力の重大要素は生産規模、製造コストを念頭に置かねばならない。その点では、現地生産の優位性(輸送コスト低減)から、世界をブロックに分け、各地域に生産拠点を持ち、その地域の需要を取り込む考えもある。
  しかし、日本の鉄鋼経営者に共通しているのは、技術開発による鉄鋼の品質改良により産業の発展に資する、すなわち、差別化による競争優位の獲得、高級鋼供給による顧客満足、市場プレゼンスの向上を図る、さらには、高い品質の維持・安定も欠かせない、との考えであろう。これは、産業連携が日本製造業の物づくり力の基礎となり、技術開発力と製造現場の高技能の維持が重要であるとの判断である。
 グローバル戦略を考えるとき、日本の製鉄所の競争力を単体としていかに保持、向上させるかと同時に、世界各地の製造拠点がどのような形で日本の製鉄所に貢献するかの視点も重要になる。すべての経営資源を目標の方向に整合させ投入する、すなわち、本体も含めた全体が有機的に作動し、将来の安定・成長に結びつけることを考えねばならない。
 また、資源確保(鉄鉱石・石炭、レアメタル)のための巨額の投資リスクを抱えた資源開発への対応や地球環境のため、グローバルな視野に立った問題解決にも取り組まねばならない。
 グローバル化への対応を迫られ事業の世界展開を模索する一方、日本経済を支えるものづくりの力をどのように維持発展させていくかの方策を考え、頭を悩ませているのが今日の姿であろうと思われる。

*この講演要旨は、講演者本人が講演の原稿をもとに作成したものです。

このページの上部へ戻る