第37回OFC講演会

演題

「データから見た日本の社会と経済 -データからグローバル化を読み解く-」

開催日時/場所

平成23年3月11日(金)午後6時半~ / 大阪大学中之島センター7階 講義室2

講師

大阪大学経済学研究科 准教授 竹内 惠行 氏

竹内 惠行 氏

プロフィール

  • 横浜国立大学経済学部卒、経済学修士(横浜国立大学)。
  • 東京大学大学院、福島大学経済学部助教授を経て、1992年より現職。
  • 専門分野は応用統計学、応用計量経済分析、統計学史。
  • 主要論文は、「株式投資収益率の条件分散について」(経済研究)、Trends and Structural Changes in Macroeconomics Time Series(Journal of the Japan Statistical Society) 、「わが国における実質賃金の決定について」(経済学論集)など。 翻訳「統計学を拓いた異才たち」-共訳(日本経済新聞出版社)。

講義風景

  • 会場風景
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講演要旨

 21世紀に入って、日本の社会状況そして経済状況が激変したのではないか、と思わせる出来事が起き始めているが、日常的にその変化を実感できるところまでは至っていない。このようなギャップは何故生じるのであろうか。本講演では、公的な統計データを駆使して、社会や経済の変化がもっと前より始まっていたことを明らかにするとともに、グローバル化が日本の社会や経済にどのような影響を与るかについても考察を行った。
 本講演では、ヒトとモノの流れと現状に焦点を当て、
1. 日本の人口と世帯構成の推移:4人核家族は代表的世帯たりうるか
2. 日本における所得分布の推移:所得格差は拡大しているのか
3. 世界の人口と所得の推移:世界で何が起ころうとしていているのか
4. 世界のモノの流れ:グローバル化と中国の役割を理解する
5. 世界のヒトの流れ:大量移民時代の到来?
6. 現状を反映するデータ:作成側からみた公的統計
の6部構成とした。
 まず、第1部では、国勢調査のデータに基づき、1970年から2005年までの人口と世帯構成の推移について考察を行った。核家族世帯の全世帯に対するシェアは、日本全国では微減傾向はあるものの約6割で推移している。しかし、大都市、特に東京特別区と福岡市においては5割を切る水準まで低下している。他方、単身世帯のシェアは、日本全国では、この35年間に2割から3割までに増加している。特に、東京特別区や福岡市では、核家族世帯のシェアに近づく水準にまで到達しており、「夫婦と子供」という核家族世帯のシェアは1/4~3割とその代表性が薄れつつある。
 第2部では、「国民生活基礎調査」のデータに基づき、所得分布の考察を行った。近年、ジニ係数の数値が悪化する傾向にあり、所得格差が拡大する傾向にあることが窺える。
 第3部では、国連統計に基づき、世界の人口と(一人当たり)所得を11の地域ブロック別に考察した。1970年~2004年の35年間における人口増加率と一人当たりGDP増加率に注目すると、人口増加率が2%を超えるのはアフリカ、西アジア、中央アジアの諸国であり、特にアフリカと西アジアで人口の増加が顕著である。だが、一人当たりGDPでは、アフリカはここ30年余の間でほとんど増えない「停滞の30年」とでも言うべき状況が続いている。また、ロシアに関しては、ソ連崩壊の影響もあって、マイナスの値を示している。経済成長が著しいと言われるアジアに関しては、一人当たりGDPの増加率が、東南アジアが3.67%と高い成長を示している他、東アジア、南アジアとも2%台になっている。だが、東欧の経済成長が東アジアと同程度であることは注目すべきことである。さらに、世界人口の地域別シェアでは、南アジアのシェアが、1970年代の5分の1から、2004年では4分の1に近い水準まで上昇していることが分かった。
 第4部では、IMFの統計に基づき、世界の貿易状況を表した「貿易マトリックス」による考察を行った。1980年において、貿易額が大きいのは、アメリカと先進国ヨーロッパの間の相互輸出入と、中東途上国の先進国ヨーロッパへの輸出(原油がその中心)である。1990年になると、ヨーロッパ先進国の中東からの輸入が減少する一方、先進国ヨーロッパから途上国ヨーロッパへの輸出と、日本の北米向け輸出が増大するなど、構造に若干の変化が生じたことがわかる。ところが、2000年になると、グローバル化、すなわち相互依存関係が急速に拡大したことが窺え、さらに2000年代の半ばに入ると、相互依存関係が中国のプレゼンスの大きさとともにさらに拡大していることが分かる。もはや一国や地域ブロック内で経済が完結することはない時代に突入したと言えるであろう。
 第5部では、日英米3カ国の入国者データとOECD加盟国の移民データなどに基づき、ヒトの世界的移動を考察した。日英米3ヵ国の入国者データから、9・11事件の影響はあったものの、入国者数は増大の一歩を辿っている。英米については、旧植民地や近隣地域からの入国者が多いが、米の移民以外の入国者で日本が常にTOP3に入っているのは注目すべきである。日本については、入国者数が約40年で10倍の約760万人に増加し、そのうち6割を中国、韓国、台湾の近隣3カ国が占めている。次にOECDのデータから移民についての考察を行った。97~01年の5年間における移民の元国籍は、メキシコが75万人で最も多く、その殆どが米への移住である。次に多いのがトルコで49万人、その6割近い29万人がドイツに、他はヨーロッパを中心に移住している。インド、ベトナムなどのアジア諸国からもそれぞれ約25万人が、北米を中心に移住している。またモロッコからの移民も24万人に上っており、西欧の一部の国々への移民の1位を占めている。さらに社会的・経済的混乱による旧ソ連地区からの10万人単位の移民や、数は小さいものの東欧の紛争地域からの移民がヨーロッパやカナダを中心に移住していることは、興味深い。
 最後に第6部では、本講演で利用した統計データの元となっている公的統計について解説し、国民生活上の重要性説明するとともに、その品質向上には市民一人一人の積極的協力が必要であることを示した。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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