第59回OFC講演会

演題

日本財政の持続可能性を考える

開催日時/場所

2019年11月12日(火)午後2時30分~ /大阪大学中之島センター7階 講義室703

講師

大阪大学大学院国際公共政策研究科教授 赤井 伸郎 氏

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プロフィール

    平成 3 年3月 大阪大学経済学部経済学科卒業
    平成10年6月 大阪大学経済学博士学位取得
    平成23年5月 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
     2003年11月刊行の「地方交付税の経済学」有斐閣(佐藤主光氏・山下耕治氏との共著)は第47回日経・経済図書文化賞を受賞。2006年11月刊行の「行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統治システムを考える―」(有斐閣)は、第48回エコノミスト賞を受賞。 平成27年8月より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。 また財務省、総務省、国土交通省、文部科学省の委員にも就任。

講義風景

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  • 講義風景3

講演要旨

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本講演では、日本の財政が持続可能な状態にあるのか、また、社会保障財源としての消費税財源や今後の消費税増税の可能性について、国民はどのような覚悟が必要なのかを考えてみたいと思います。

1:日本財政の実態
 令和元年度の一般会計予算は、100兆円を超える規模となっています。歳出の内訳は、社会保障が約33%、地方交付税交付金と呼ばれる、使途が自由な財源の地方移転が約16%、続いて、公共事業費、教育費、防衛費が、各5-6%となっています。歳入の内訳は、基幹税である、所得税、法人税、消費税の3税で約50%となっています。残り50%のうち、6割以上(全体の約30%ほど)は、公債金と呼ばれる借金に頼っています。この返済は将来の税収から行われることになるため、公債金は、将来世代からの借金とも言えます。
では、これまでの歳入と歳出の動きを見てみましょう。図には、「一般会計における歳出・歳入の状況」が示されています。

出所:財務省(2019)「日本の財政関係資料」2019.10
折れ線グラフが二つありますが、上方に位置するグラフが歳出の推移であり、下方に位置するグラフが一般会計税収(公債費は除かれています。)の推移です。平成元年度ごろまでは、同じ動きをしていたことが分かると思います。まさに、高度成長の時期に当たります。その後、バブル崩壊に伴い、税収が落ち込みました。一方で、景気対策の必要性から、歳出はさらに拡大を続けました。広がりは縮小するかに見えましたが、平成19年度ごろから、また、二つの折れ線グラフの差が拡大していることがわかると思います。いわゆるリーマンショックです。歳出は、その後、さらに伸び続けています。近年の景気拡大による税収の伸びにより、差は少し縮小していますが、いまだ、大きな差が残っています。この差は、毎年、借金で埋め合わされています。また、これまでの差は、すべて借金として積みあがり、その総額は、毎年拡大しています。現在、その総額である公債残高は、897兆円(令和元年度末の普通国債残高の見込み)に上ります。この残高は、国力との比較で議論されることが多いのですが、GDPで除した値も160%となり、主要先進国の中でも最大の値となっています。
 この状態を家計にたとえると、毎月、借金をして、給料水準を上回る水準の生活を行っていることになります。過去の借金を返済するために、新たな借金をしており、このままであれば、借金は増え続け、持続性が脅かされるとともに、子供の世代に巨額の借金が引き継がれることになることが分かります。
 
2:借金が可能となる背景
 通常の家計や企業であれば、このような世帯や会社は、借金ができない状態に陥ると思われますが、日本が借金をできているのはどうしてでしょうか? この背景には、主に2つの理由があると思われます。第一は、金利水準の低下です。平成の30年間、金利は下がり続け、現在も続いています。成熟化した日本には、魅力的な投資先がほとんど存在せず、また、日銀が国債を引き受ける形で行っている金融緩和もあり、お金が余っている状態にあるからです。お金は国債へと向かい、低金利で国債の発行が可能となっています。残高が増えているにもかかわらず、利払い費はほとんど増えていないのが現状です。それにより、借金が継続できているわけです。第二は、日本の金融資産の総量です。金融資産の総量が政府債務をカバーできる範囲内にあり、ほとんどは、日本国内で消化されます。外国に頼っていないため、日本国民の信頼がある限り、借金の継続は可能となります。

3:拡大する歳出と、社会保障費
 では、どうして借金を続けてまで歳出を増やし続けなければならないのでしょうか?20年前と比較した場合、最も増えている費用は、社会保障費であり、毎年拡大を続けています。この背景には、高齢化と社会保障の充実があります。健康のまま寿命が延びれば良いのですが、実際は、医療に頼りながら長生きする状況にあります。また、医療が進化し、高度な治療により、長生きが可能となっている側面もあります。これらは、医療費を毎年増加させます。一方で、生活の質は高まっているのですが、社会保障費に見合うだけの負担を国民に課せていないため、借金に頼らざるを得ない状態に陥っているわけです。少子化により、税を納める世代の割合は減少します。社会保障費用をどのように確保するのかが問われます。

4:社会保障費をまかなうための消費税と目指すべき方向
 社会保障費をまかなうための財源として、2019年10月から消費税が引き上げられ、10%となりました。新たな財源は、新たな社会保障の充実にも使われるため、借金に頼る状態は、いまだ続いています。今後、持続可能な財政を実現するためには、この状態を改善することが求められます。図は、国民負担率と、社会保障支出のGDP比について、各国の状況を表したものです。社会保障支出を将来にわたってファイナンスしていくためには、国民に負担をお願いする必要があり、右上がりの一定の領域に入ることが必要です。日本は、1990年には、この領域に入っていましたが、その後、社会保障支出が拡大する一方で、国民負担率は上昇しない状態が続き、この範囲から離れていく方向にあります。このままの状態が続けば、さらに離れることになり、社会保障サービスの持続可能性が困難になります。適正な領域に戻るためには、社会保障費を効率化し下方に向かうか、国民負担率を引き上げ右に向かうかのどちらかが必要です。実際は、両方を取り入れて、右下に向かうことが現実的であると、私は考えます。これは、国民がしっかりと考えて答えを早急に出すべき緊急の課題であると言えるでしょう。


*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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