第63回OFC講演会

演題

命を大切にする社会を目指して  大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)の理念と活動

開催日時/場所

2021年6月11日(金)午後6時30分~ /WEB会議サービス「Zoom」

講師

大阪大学大学院経済学研究科教授 社会ソリューションイニシアティブ長    堂目 卓生 氏

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プロフィール

    慶應義塾大学経済学部卒業後、京都大学大学院博士課程修了(経済学博士)。立命館大学助教授、大阪大学助教授を経て、2001年、大阪大学教授。専門は経済学史、経済思想。Political Economy of Public Finance in Britain 1873-1767 (Routledge 2004)で日経・経済図書文化賞、「アダム・スミス-『道徳感情論』と『国富論』の世界」(中央公論新社、2008年)でサントリー学芸賞を受賞。2019年、紫綬褒章。

講演要旨

 

 新型コロナ・ウィルス感染症によって、誰もが「社会的弱者」になり得る時代にあることが分かりました。しかし、普通に生活していた人を「社会的弱者」にする可能性は、震災や台風等の災害、気候変動、水不足、紛争等、どの社会課題も持っています。ですから、たとえコロナ禍を切り抜けたとしても、こうした時代が続くと考えなくてはなりません。
 私は、コロナ禍が起こる前の2018年、学内に「社会ソリューションイニシアティブ(SSI)」というシンクタンクを立ち上げました。SSIは、「命」をキーワードとし、2050年に実現すべき社会を「命を大切にし、一人一人が輝く社会」と考えます。そして、「まもる」、「はぐくむ」、「つなぐ」という3つの視点から社会課題の解決に取り組んでいきます。大阪大学の人文学・社会科学系部局が中心となって、理工系・医歯薬系など自然科学系の研究者と連携を図りながら、さらには、パプリックセクターや民間企業など、さまざまな社会のステークホルダーと協働しながら社会課題の発見と解決を進め、持続可能な社会を構想します。
 SSIは、3つのステップからなる螺旋的循環を繰り返しながら取組を進めていきます。  ステップ1として、「命を大切にし、一人一人が輝く社会」とはどのような社会かを考え、その構想のもとで、解決しなくてはならない課題を発見し整理する「場」を設けます。たとえば、学内外の人びとが集う30人規模の「サロン」を開催し、個別の課題について、あるいは将来の社会について意見を出し合い、共有します。
 ステップ2は、課題ごとに「基幹プロジェクト」を作ります。プロジェクトには学内の研究者だけでなく、学外の研究者、あるいは実務家、さらには大学院生等が含まれ、全部で10人ぐらいのチームとなります。プロジェクトの期間は3年~5年です。プロジェクト終了時には何らかの政策提言を出します。
 ステップ3では、シンポジウム等を開催し、プロジェクトの活動を踏まえながら、目指すべき社会を構想します。そして更新された構想をもとに、解決すべきさらなる諸課題を発見します。つまりステップ1に戻って、新たなラウンドを始めます。このような循環を他大学や様々な機関との連携を拡げながら、2050年まで30年つづけます。
 この3年間、以上のような「場づくり」、「プロジェクト」、「社会との意識共有」に取り組んできましたが、今後はSDGs推進、および万博に向けた取組も進めたいと考えています。
 重要なのは、活動のプロセスにおいて、社会の様々なステークホルダーと、課題や解決策、社会像・価値を双方向で提示していくこと、そして、互いに助け合う「共創ネットワーク」を形成することです。この「共創ネットワーク」こそ、目指すべき社会の具体的な形を定め、実現すると考えます。少数の「イノベーター」が突然社会を変えるのではなく、無数の無名の人びとが信頼関係を結び、情報を交換し、助け合うことによって社会変革は起きると考えます。これは、私が30年間続けてきた歴史研究から導いた結論です。
 「命」という概念を出発点にし、「共創ネットワーク」の形成を通じて、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする大阪・関西万博、2030年をターゲットに「誰一人取り残さない」を掲げるSDGsを経て、2050年に「命を大切にし、一人一人が輝く社会」を実現する。これが、SSIが拓く未来への道です。
詳しくはSSIのホームページをご覧ください(https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/)。

*この講演要旨は、OFC事務局の責任で編集したものです。

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